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土曜日の余韻が、平日へ滲む|andsaturday coffee & cakes

風が強い日ほど、コーヒーの香りは遠くまで届く。
テントの白い天井に貼られたカードが目に入った。Pear, berry, chocolateMelon, Vanilla。そして、Cranberry, Orange
フレーバーは説明ではなく、入口だ。舌の行き先を先に示してくれる。
台の上には、豆袋とケーキ。抽出器具と、慣れた手。
コーヒーを飲む場所なのに、ここには“食べる幸せ”の匂いもある。
コーヒー単体で完結させず、ケーキと一緒に感情まで運ぶ。
その意志が、道具の配置からすでに伝わってきた。

第一章|この店は“土曜日だけの珈琲店”から始まった

この店は、最初から“”だったわけではない。2020年に創業し、
POPUPとオンラインを軸に歩き始めたこと。
そしてパンデミックの影響で、止まらざるを得なかった時間があったこと。
その時間を越えて、2022年3月に神奈川県逗子市で実店舗「andsaturday coffee & cakes」をひらいたこと。

店が伝えたい核は、言葉にすればこうなる。
忙しい毎日に、ほっと一息つける“特別な時間”を。
日常に溶け込みながら、ひとくちごとに心が少し豊かになる、ちょっとした贅沢を。

そしてもう一つ。周年の考え方が面白い。
節目”は4月にもあるけれど、本当の意味での周年は「土曜日だけの珈琲店」を始めた7月にある——そんなふうに、時間の置き方が丁寧だ。
店名が曜日を背負っているのは、飾りじゃない。

第二章|会場での一杯:フレーバーカードは、会話の地図

Ethiopia DECAFCranberry / Orange
Colombia(Milan / Caturra / Nitro Washed)Melon / Vanilla
andsaturday BLEND:Pear / berry / Chocolate

この店の出し方は、最初から“当てにいく”感じじゃない。
むしろ、会話で一緒に好みを見つけるほうに重心がある。

会話の中でも、こういう軸が出ていた。
「コーヒーをどちらから提案するかで、対話の中で好みの味を一緒に見つけていく」
つまり、味は提示されるものじゃなく、すり合わせで立ち上がる。

フレーバーは結論ではなく、対話を始めるための言葉。
この店は、その順番を崩さない。

第三章|店のこだわり:“浅すぎない浅煎り”という技術

「基本的には浅煎りだけど、浅過ぎない浅入り」
この一文が、店の哲学をほぼ言い切っている。

浅煎りは、軽さが先に立つと、味が“薄い”に見えてしまう。
でも、浅すぎない浅煎りは違う。
軽やかさの中に、甘さと密度を残す。果実味を明るく出しながら、
飲み終わりに“ちゃんとコーヒーだった”が残る。

そして、目的がはっきりしている。
「日常にちょっとだけ豊かさを持ってもらえるようなコーヒー」
豪華じゃなくていい。重くなくていい。
日常の隙間に刺さる、静かな豊かさ——その狙いが、焙煎の言い方に現れている。

第四章|所作メモ:家で近づけるコツは“味を再現する”より“良さを寄せる”

・家で再現するには、「良い部分を理解した上で
・お店との対話、飲んだときのメモ
・その良い部分に寄せて、自分で調整していくプロセス

ここで大事なのは、再現の定義だ。
同じ味を“コピー”するより、その豆の良さ(甘み/果実味/すっきり感)を狙って寄せる。
この姿勢があると、家の器具でもちゃんと近づける。

再現は、正解探しじゃない。良さに向かって寄せる作業。

第五章|家での再現TIP:まずはこの“二つのメモ”だけ取る

細かいレシピより先に、まずはメモの型を揃えるのが効く。

・香りの方向(果実/花/チョコ/ナッツ/紅茶っぽさ など)
・飲み終わりの印象(すっきり/甘みが残る/軽い苦み/余韻が長い など)

その上で、家で寄せるときはシンプルに。
・明るい果実を出したい → お湯の勢いを強くしすぎず、抽出を急がない
・すっきりを出したい → 後半を引っぱらない(落とし切りを欲張らない)
・甘みを残したい → 温度を上げすぎない・濃くしすぎない

買ったドリップパックなら、なおさら“欲張らない”が合う。お湯を注ぎすぎると、良さが散る。
短い工程ほど、狙いを一点に絞るほうが勝つ。

第六章|ペアリング「果実がほどける午後」

店側の言葉が、そのままペアリングの設計になっていた。

エチオピア(甘みが結構ある):午後にスイーツでも◎
タンザニア(朝の目覚めの一杯ですごくすっきり):朝のスタートに◎

そして、andsaturdayの強みはもう一段上にある。
「スペシャリティコーヒーとケーキを両方提供していて、
ケーキを食べながらコーヒーを飲んだ時に幸せになる感情みたいなものまで到達できる」
果物のフレーバーと、果物を使ったケーキ。
混ざり合って起きるマリアージュを、味ではなく“感情”として狙っている。

喫茶叙景文 ~テントの中で、浅煎りが立ち上がる~

冷蔵庫の扉が閉まる音が、部屋の空気を少しだけ引き締める。
冷えた甘さは、香りを派手にしない代わりに、輪郭をくっきり残す。
台所の明かりは白く、夜の影は薄い。ここから先は、今日の終わりをほどく時間になる。

袋の白さに、赤いロゴ。andsaturday BLEND。
紙の手触りが乾いていて、指先に“外の時間”が少し残る。
コーヒーは日々の道具なのに、こういう瞬間だけは小さな贈り物みたいに見える。
湯を沸かす間、部屋の隅々が静かになる。湯気が立つと、余計な考えは薄くなる。

横に置いたのは、キャラメルりんごのパウンドケーキ。
透明な袋越しに見える焼き色は、焦げではなく、暮れかけの琥珀。
冷やした生地は、ふわふわではない。音も立てない。
フォークを入れたとき、しっとりとした抵抗が先に来て、次にすっと刃が通る。
崩れない。ホロホロと散らない。
その代わり、舌の上でゆっくりほどけるための密度がある。

口に運ぶと、冷えがまず触れる。
じっとりとした舌触りが、甘さを焦らせない。
そこへ、りんごが来る。果肉というより、コンポートの柔らかさ。
仄かに残るシャリっとした気配が、生地の滑らかさに混じって、食感に小さな立体を作る。
キャラメルは重たくない。甘さが押してくるのではなく、焼きの香りが奥で支える。
そして、ラム。
ただ甘いだけでは終わらせないための、薄い影が、後口にだけ残る。
香りが“上がる”というより、“残る”。言葉にするとそれがいちばん近い。

そこへコーヒーを重ねる。
ドリップパックは手軽で、けれど雑にもできる。
湯を落とす線を細くしすぎず、急がず、膨らむ時間を一度だけ与える。
香りが立った瞬間、部屋の空気が少しだけ明るくなる。
果実が顔を出す前に、甘さの気配が先にある。
ケーキのキャラメルと、コーヒーの甘さが、同じ方向を向いて重なる。
りんごの影が、飲み終わりの余韻に移る。
ラムの薄い影が、コーヒーの後口を少しだけ大人にする。

幸せは、派手な甘さでも、強い香りでもない。
口の中で、二つが同じ速度でほどけること。
それだけで、日常は少しだけ綺麗になる。

土曜日は週に一度ではない。
冷蔵庫で冷やしたケーキと、湯気の立つカップが並ぶだけで、曜日は静かに書き換わる。
窓の外の音が遠くても、ここにはちゃんと手触りのある時間がある。
残るのは、赤いロゴの白い袋と、舌の奥に灯った果実の余韻。
帰路も、行列も、会場のざわめきも、もう要らない。
この台所の明かりの下で、祝祭は十分に静かだ。

店舗概要

1 住所:

神奈川県逗子市逗子7丁目1-5 中尾ビル1F

2 アクセス:

JR逗子駅から徒歩約3分

3 営業時間:

OPEN 10:00 / CLOSE 17:00(L.O. 16:30)

4 備考:

定休日:日・月・火(投稿情報より)/POPUPや限定販売の告知があるため、最新情報は公式発信で要確認

5公式Instagram:
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