冬の澄んだ空気の中、川越コーヒーフェスティバルの看板が朝の光を受けている。
まだ人影のまばらな境内に、スタッフの声と準備の音だけが響く。
受付でリストバンドを受け取る。
「今日はここから、10杯の物語を集める」
そう心の中でつぶやいて、最初の一店目へ歩き出す。
第一章|川越コーヒーフェスティバルという場
会場は、川越・蓮馨寺の境内。
本堂へ続く石畳の左右に、焙煎所やカフェのテントがずらりと並ぶ。
お寺の柱と、最新のドリップスタンド。
線香の残り香と、浅煎りのベリーの香り。
ふだんは出会わない匂い同士が、同じ空気の中で溶け合っている。
本部ブースでは、オリジナルマグカップやトートバッグ、TASUKIストラップ
などのグッズが並ぶ。
カップの白と、境内の砂の色。紙袋の音。
この場所だけが、小さな「街のコーヒー商店街」になっている。

第二章|10杯の巡礼ルート
この日めぐったのは、合計10店舗。
それぞれのブースに、それぞれの「らしさ」が立ち上がっていた。
・産地のストーリーが詰まったロースター、FUJIYAMA COFFEE ROASTERS
・旅の途中で立ち寄るような空気をまとった townsfolk coffee
・生活の延長線上にある一杯を提案する Life Size Cribe
・水戸の町を背負うように提灯を掲げた HITACHINO COFFEE
・麹ミルクでホットチョコレートを届けていた Mörk Chocolate
・「COFFEE FOR ME」の合言葉が似合う SACHIOPIA COFFEE
そして、この日のラストを飾った REDPOISON など。
一つひとつのブースで、豆の説明を聞き、香りを確かめ、
「この一杯にする」 と決める瞬間が積み重なっていく。
詳しい体験は、各店の記事に譲るとして、
ここでは10杯が一つのストーリーになっていく感覚だけを残しておきたい


第三章|フェスがくれた「出会い」それぞれのカップには、短いけれどはっきりした個性があった。
印象的だったのは、入場列で話しかけてくれたコーヒー通の来場者だ。
自然な流れでコーヒーの話になり、
その人がREDPOISONの常連であることがわかる。
「本当は、ここだけ一時間くらい並ぶ日もあるんですよ」
その一言が、この日のルートを決めた。
「それなら、最後の一杯はそこにしよう」
まだ境内にも入っていない時間帯に、ゴール地点だけが先に決まる。
バリスタとの会話も、フェスならではの濃さを持っていた。
HITACHINO COFFEE では甘さを意識した抽出の話を聞き、
SACHIOPIA COFFEE では、コーヒーではなく自家製レモネードを選んだ理由を笑い合う。
一杯ごとに、言葉と表情が記憶に残る。


第四章|一杯ごとの、小さなハイライト
それぞれのカップには、短いけれどはっきりした個性があった。
・HITACHINO COFFEE
甘味を大切にしたドリップバッグ。
水戸の提灯の話を聞きながら、家でじっくり味わうための一杯を持ち帰る。
・Mörk Chocolate の麹ミルク・ホットチョコレート
85%カカオのビターさを、麹のやさしい甘さが包み込む。
コーヒーの合間に、一度カカオの世界へ寄り道する時間。
・SACHIOPIA COFFEE の生レモネード
コーヒーで少し疲れた胃を、温かいレモネードがなだめていく。
柔らかいレモンまで食べられる一杯で、口の中と気持ちをリセットする。
・Life Size Cribe の Green Continent ラテ
強面のバリスタが淹れるのに、味は驚くほどやさしい。
ダークチョコレートの香りが濃厚で、「コーヒー風味のココア」 のようにも感じる。
・REDPOISON の RUMJAM – Kawagoe Special 2025
カップを近づけた瞬間、まずラム酒のような香りが立ち上がる。
一口飲むと、ラムレーズンやジャムよりも濃い世界が現れ、
その後になってようやく、「いまコーヒーを飲んでいる」 と気づく。
10杯を飲み終えるころには、
境内の光も少しずつ傾き始めていた。


第五章|持ち帰ったもの
手元には、ドリップバッグや豆、イベントのグッズがいくつか残る。
しかし、家に帰ってからふと思い出すのは、紙袋の中身だけではない。
列に並びながら交わした短い会話。
一杯をすすめてくれた笑顔。
胸や胃のあたりに残る、甘さや酸味の余韻。
コーヒーを飲みに行ったつもりが、
気づけば「人と場所の記憶」を連れ帰っていた。
そんな感覚が、この日のいちばん大きなお土産になった。
喫茶叙景文 ~境内にひらく、コーヒーの朝市~
境内の片隅、手水舎の水面が、夕方の光をゆっくり返している。
朝は人であふれていた石畳も、いまは足音がまばらだ。
リストバンドのチケットはすべて切り離され、
紙だけが少しくたびれた輪になって手首に残っている。
指先には、さっきまで持っていたカップの熱が、かすかに残っている。
屋台のテントが一つずつ片づけられ、
ミルクピッチャーの音も、グラインダーの音も沈んでいく。
それでもまだ、境内の空気には、
浅煎りのベリーと、ダークチョコレートと、ラムレーズンの香りが薄く漂っ
ている。
門をくぐって振り返ると、
Kawagoe Coffee Festival の看板だけが、まだ静かに立っている。
その前を通り過ぎる人たちの手にも、それぞれ違う色の余韻が揺れているように
見える。
今日選んだ10杯は、もう飲み終えてしまった。
けれど、胸の奥には、
次のフェスでどんな一杯に出会うのかを思い描く、小さな期待が灯っている。
川越の寺の境内で過ごした一日が、
家への帰り道を、いつもより少しだけ甘くしている。
基本情報
- 1 住所:
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〒350-0066 埼玉県川越市連雀町7-1 付近 蓮馨寺 境内
- 2 アクセス:
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東武東上線・JR「川越駅」または西武新宿線「本川越駅」から徒歩圏内。
小江戸の町並みを抜けて向かうルートが、散歩にちょうどいい距離。
- 3 開催時間(2025年):
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2025年12月6日(土)・7日(日) 10:00〜16:30
- 4 備考:
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・会場内はリストバンド
・人気店は長い行列ができることもあるため、朝一の入場がおすすめ。
・オリジナルマグカップやトートバッグなど、グッズ販売ブースもあり。
- 5 最新情報:
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公式Instagram、オンラインストアに随時。イベント在庫まずはSNSで告知。




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