アティックのページに並ぶ言葉が、少し欲張りで、まっすぐだ。おいしいコーヒー、おいしい料理、
景色を見ながらリラックス、ニコニコと微笑む、そして「わあっ」と驚く。
あれもこれも、と言い切ってしまう潔さがある。
その欲張りは、ただのメニューの多さではない。屋根裏で過ごした子どもの頃の“ワクワク”を、
今度は来る人に手渡したい──そんな記憶の延長線に店名が置かれている。
attic=屋根裏という意味と、その由来がきちんと語られているのも、良い。
そして歴史も長い。2004年に出島ワーフで「DeliciousRestaurantAttic」として生まれ、
店を増やし法人化するタイミングで株式会社Attic coffee and diningの名を掲げた、と
いう流れが見える。
レストランの背骨を持ったまま、コーヒーへ“跳ぶ”。その助走があるから、一杯にも甘い焼菓子にも、同じくらい体温が乗る。
第一章|店の輪郭:出島ワーフで、食べる・飲む・ほどける
「Attic coffee and dining」は長崎・出島ワーフに店を構える。海風が入るロケーションで、
コーヒーと食事が“同じテーブルの上”に並ぶ場だ。
同じグループとして、焙煎所(出島珈琲焙煎所)も明確に打ち出されている。
コーヒーが“店の外側”にも伸びていけるのは、焙煎という柱があるからだ。
「港の景色に、味の輪郭を預けられる店は強い。」
料理とコーヒー、土産物と日常。いくつもの入口が用意されていて、
入った人が自分の速度に戻れるように設計されている感じがする。

第二章|コーヒーの芯:中煎りで、苦くも浅くもない場所へ
会場で伺った言葉が、アティックのコーヒー像を一番端的に示していた。
・豆は複数(6〜7種ほど)扱い、その中から選ぶ
・焙煎は「浅くもなく、苦くもなく」の中煎りに軸足を置く
・温度は90〜92℃を目安にする �
中煎り、という言葉は簡単に聞こえるけれど、実際は“逃げ場がない”。浅煎りの香りの華やかさにも、
深煎りの厚い苦味にも寄り切らない。だからこそ、抽出のちょっとした乱れで輪郭が崩れる。
それでもアティックは、そこを選ぶ。景色を見ながら飲む一杯として、強すぎないのに、
ちゃんと記憶に残る場所を狙っている。
さらに面白いのが、「お店でもコーヒーを一投でいれる」というメモ。
注ぎの回数を増やして技で魅せるより、狙った味に一直線で着地する。
料理の現場のような、手つきの実務感がある。

第三章|家で近づく:90〜92℃という“やさしい制約”
「再現のポイントは?」と聞いたとき、返ってきたのは温度帯だった。
90〜92℃。沸騰直後の熱で押し切ると、狙いと違う方向へ振れる。
だから“熱すぎない”ところへ揃える。
温度は、家庭で一番コントロールしやすいレバーだ。湯沸かし→少し待つ、
あるいは別ポットへ移す。それだけで味が変わる。
「温度を整えるのは、豆の声量を整えること。」
香りを大きくするための“熱”ではなく、甘さや果実感の輪郭を壊さないための熱。
ここに店の思想が出る。

第四章|長崎カステラ:土地の記憶を、コーヒーに練り込む
出島といえば、異国の風が行き交った場所だ。
アティックの土産に長崎カステラがあるのは、観光的な記号というより、
場所と店の文脈が合うからだと思う。
会場での説明が良かった。
「長崎といえばカステラ」──そのうえで、コーヒーの粉をカステラに練り込む。
甘くてしっとりした長崎のカステラを、コーヒーの“香りの層”で深くする。
店のページでも、カステラが看板商品のひとつとして扱われている。
「甘い土産は、旅の終わりにだけ似合うわけじゃない。」
冷蔵庫の灯りの前でも、仕事の合間でも、あの“港の甘さ”は戻ってくる。

第五章|豆の個性とペアリング:三つの方向、ひとつの着地
・ブラジル:アーモンド、ナッツのような香ばしさ
・エチオピア:ストロベリーのようなフルーティーさ
・ブレンド:中煎り寄りで、スイーツに合わせやすい設計
さらに、カステラに合わせる“推し”として、ニカラグア(アナエロビック)
を用意している、という話が出た。香りはピーチのようだという。
カステラの甘さは、香りの明るい果実と相性がいい。
砂糖の甘さが“平面”になりがちなところを、果実香が立体にする。

第六章|家での再現TIP:テトラで、店の線をなぞる
購入したのはCOFFEE TETRA(テトラパック)。
パッケージ裏の手順はシンプルで、ここもアティックらしい。
カップにテトラを入れて湯を注ぐ
軽く揺らしながら3〜4分待つ
好みの濃さで引き上げる(浸けたままでも可)
ここに、さっきの90〜92℃を組み合わせる。
熱で押さず、時間で“ほどく”。浸漬は甘さが出やすいぶん、
温度が高すぎると苦みが出やすい。だからこそ、温度の制約が効いてくる。
「テトラは簡単だからこそ、温度が性格になる。」

第七章|ペアリング:コーヒーとカステラ、もう一段だけ上へ
・ニカラグア(アナエロビック)× カステラ
ピーチの香りが、カステラの甘さの中に“空気の通り道”をつくる。
・ブラジル × バター系焼菓子
ナッツ香の方向が揃い、食後の口の中が穏やかにまとまる。
・エチオピア × フルーツ系
ストロベリーの香りが甘さを軽くする。
第八章|買うならこの2本:土産と日常の、二刀流
・ブレンド:スイーツと合わせる前提で作っている、という説明がいちばん信頼できる。迷ったらここ。
・エチオピア:香りで気分を上げたい日に。カステラ以外の甘いおやつにも幅が広い。
(家用に“落ち着き”が欲しいならブラジルを足して三本にするのも気持ちがいい。香ばしさは疲れた日に効く。)


喫茶叙景文 ~港の屋根裏、甘さの余熱~
風が、塩を含んでいる。
出島の水面は、昼の光をいったん受け止めてから、ゆっくりと返す。
歩くたび、足元の板の響きが少し遅れてついてくる。港の街は、
いつも音が遠い。だから、香りが近い。
屋根の下に入ると、外の風が一枚、肩から落ちる。
カウンターの向こうで湯が動き、細い湯気が立つ。
あれは煙ではなく、暮らしの中の小さな合図だ。
ここから先は、焦らなくていい、と言っている。
一杯は、強く主張しない。
けれど、静かなところでちゃんと甘い。
熱で押し切るのではなく、輪郭が壊れない温度で、味の芯だけを起こしていく。
舌の上で、ふっと“伸びていく”甘さがある。苦味でも酸味でもなく、まず甘さが残る。
そこに、果実の影や、ナッツの余韻がすこし遅れて合流する。
ガラス越しに港を見ていると、景色が味の一部になる。
船の白、空の鈍い青、波の小さな皺。何気ない色の集まりが、
コーヒーの中煎りの色と呼応する。目と舌が同じ速度でほどけていく。
そして、甘い土産。カステラは、ただの郷土菓子ではなく、街の記憶のかたちだ。
しっとりした生地の奥に、珈琲の粉が静かに潜み、砂糖の甘さに影を落とす。
切り口から立つ香りが、港の風に似ている。甘いのに、どこか涼しい。
テトラの小さな包みを鞄に入れると、軽いのに確かな重みが増える。
家に帰って湯を注ぐ日が、まだ来ていないのに、
もう“帰り道”の気持ちは整っている。
港で過ごした時間が、紙の中に折りたたまれているからだ。
夜、部屋の灯りの下で袋を開けるとき、出島の風が一瞬だけ戻ってくる。
湯気が立ち、甘さが伸びて、静かな余熱が手に残る。
屋根裏のワクワクは、遠くへ行かない。ちゃんと、日常の中へ降りてくる。
店舗概要
- 1 住所:
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長崎県長崎市出島町1-1 出島ワーフ1F(Attic coffee and dining)
- 2 アクセス:
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出島電停 徒歩2分/市民病院前電停 徒歩5分
- 3 営業時間:
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11:30〜22:00(ランチ 11:30〜15:00)
- 4 備考:
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定休日 水曜+年末年始/TEL 095-820-2366
焙煎所(出島珈琲焙煎所)/ 物販(テトラ、カステラ等)あり。 - 5公式Instagram:









