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記憶に残る一杯の“設計図”|Mel Coffee Roasters(銀座コーヒーフェスティバル)

会場の喧騒は、音の粒が多い。
笑い声、紙コップの擦れる音、湯気の立つ気配。人の流れが波のように押しては引いて、
視界の端で、いくつもの抽出が同時に進行する。

その中で、ふと“”が目に刺さる。
箱が整然と積まれていて、ブースの正面に、きれいな壁が立っているように見える。
白の面が光を受け、角が揃い、余計な装飾がないぶん、逆に強い。潔い。

近づくと、白の静けさの奥に、道具の黒が並ぶ。ドリッパー、サーバー、湯の糸。
注ぐというより、置く。
湯を落とすというより、味の輪郭をゆっくり起こす。

このブースは、派手さではなく「記憶」へ向かって味を組み立てている。
そんな気配が、箱の整列から先に伝わってくる。

第一章|コンセプトは「記憶に残るコーヒー」

言葉が先に、味の方向を決めてしまうことがある。
この場所では、その言葉が逃げずに残る。

記憶に残るコーヒーというのが私たちのコンセプト」
「印象に残っていただけるような種類のコーヒーをメインで入れている」

おいしい”のさらに手前で、まず“残る”を狙う。
香りが立つ瞬間の驚き、舌に当たる酸の輪郭、甘さが引くまでの時間。飲み終わったあと、会場を歩いている最中に、もう一度だけ鼻の奥で思い出せるような余韻。

高いグレードの豆や、目を引く銘柄を扱う理由も、その延長線上にある。
“価値”を飾りとして使わない。
味の記憶装置として使う。

「芸者であったり…お客様の印象に残っていただけるような種類」
「時には…(競技会で)1位を獲得した豆を、1杯で3万円とかで用意することもある」

この話は、価格の派手さのためではない。
そこまで振り切れる”という姿勢が、逆に、日常の一杯の解像度を上げる。
一杯の温度と速度に、真剣さが宿る。

第二章|新しい店、体験の店、そしてペアリング

会場で交わされた言葉の中に、店の時間軸が混じる。
本店が十周年。去年、新しい店舗をオープン。そこで用意しているのは“コース”のあるコーヒー。
体験型の設計。

「本店が…10周年」
「去年、新しい店舗をオープンして」
「コーヒーのコースを用意している」
「(コーヒーを)より高めてくれるペアリングも置いている」

ここで面白いのは、ペアリングが“脇役”ではない点。
甘味はコーヒーの敵になりやすい。砂糖と脂肪は、香りを上書きし、酸を鈍らせ、苦みを増幅することもある。
それでも、合わせ方を決めれば、逆に香りを立ち上げる装置になる。

コーヒーが主役のまま、食が“照明”になる。
甘さの角度、果実感の方向、柑橘の明るさ。
豆の性格に合わせて、食べ物を選ぶというより、記憶の残り方を揃える。

第三章|選ぶ理由は「変わった発酵」だった

ブースでの会話は、豆の“選び方”へ進む。
印象に残る味を作るには、焙煎だけでは足りないことがある。
生豆の段階から、香りの種が違う。

「プロセスを見ると…カーボニックマステレーション…ちょっと変わった発酵プロセスがある豆を買ってくる」
「なかなか馴染みのない方にも、スペシャルティにハマるきっかけの一杯になったら…」

発酵は、味を“派手”にするための魔法ではない。
うまく働けば、果実の輪郭が立ち、甘さが増し、香りが長く続く。
けれど扱いを間違えると、香りは暴れ、雑味に転ぶ。
だからこそ、発酵の個性を“記憶に残る形”へ整えるには、抽出の速度と、湯の当て方が重要になる。

このブースの抽出は、その“整え方”が丁寧だった。
湯の落ち方に、作り手の倫理がある。

第四章|ドリップパックセットという「小さな実験室」

家に持ち帰るものとして選んだのは、ドリップパックのセット。
この形式は、便利さの代わりに“自由”が減る。
挽き目も、粉量も、焙煎も固定。
その固定の中で、注ぎ方だけが味を左右する。

だからドリップパックは、抽出の練習に向く。
湯量と分割、速度、待つ時間。
変えられる要素が少ないぶん、差が見えやすい。

今回の中身はこう揃う。

・白:浅煎り ×1
・黒:中深煎り ×1
・緑:コロンビア ×2
・赤:エチオピア ×2


色分けは、味の方向を迷わせない。
飲み手に優しい設計。同時に、ペアリングや抽出のメモも残しやすい。

所作メモ|175gを4回、2投目が骨格になる

ここからは、会場で聞けた“再現の核”。
ドリップパックでも、味は作れる。
ただし、急がない。濃くしようとして焦らない。苦みは、たいてい“早さ”から出る。
「(ドリップパックは)175gのお湯を4回に分けて注ぐ」
「2回目はしっかり…」
「3回目、4回目はゆっくり注ぐことで、余分な苦みを抽出しない」

要点は三つに圧縮できる。

1:総湯量は175g
2:4投に分ける
3:2投目で芯を作り、3・4投目は速度を落とす

2投目が“骨格”になる。
ここでコーヒーの輪郭が決まる。
薄いと感じて焦って湯を増やすより、2投目の当て方を整えたほうが、味は安定する。

抽出のイメージは、こう。
最初の湯で香りの扉を開け、2投目で甘さの柱を立て、
3・4投目で柱の周りを壊さないように満たしていく。

第五章|ペアリング|赤はベリー、緑は柑橘、黒は甘味全般

ドリップパックは、“飲む前”からペアリングを決められるのがいい。
今日は赤。明日は緑。
味の方向が見えるだけで、甘さの選び方が変わる。

「黒(中深煎り)は、甘味のスイーツとかは結構何でもおすすめ」
「赤(エチオピア)は…ベリー、チェリーっぽい味わい」
「ベリー系のタルト…ベリー系…合う」
「緑(コロンビア)は柑橘系を思わせるフレーバー」
「例えばオランジェットとか、オレンジを使用したもの」

ここはメモを“料理の言葉”に置き換えると使いやすい。

黒(中深煎り):チョコ、キャラメル、バター系。甘味の幅が広い
赤(エチオピア):ベリータルト、チェリーの焼菓子、赤い果実の酸味
緑(コロンビア):オレンジ、柚子、柑橘ピール。オランジェットが刺さる

甘いもの全般が合う、と言われた黒でも、砂糖の尖りだけは避けるほうがいい。
砂糖が直線的だと、苦みが立ちやすい。
蜂蜜、メープル、焼き菓子の香ばしさ。そういう“丸い甘さ”が向く。

再現TIP|ドリップパックを、きちんと“抽出”する

ここは“道具を増やさず”できる範囲に絞る。
再現は、派手な器具より、湯の扱いで決まる。

1)お湯の温度:熱すぎを避け、香りを残す
沸騰直後の荒い熱は、苦みを引き出しやすい。
ケトルからカップへ一度移す、あるいは注ぐ前に数十秒だけ置く。
湯の角を落として、香りの層を守る。

2)湯量は175g、4回に分けて注ぐ
目盛りのあるカップやスケールがあれば、それが最短ルート。
なければ“いつものカップ”を基準に、同じ量で揃える。
大切なのは、毎回同じにすること。味の再現性が上がる。
1投目:粉全体をしっかり濡らす(香りの解放)
2投目:しっかり注ぎ、味の芯を作る
3投目:ゆっくり、乱さない
4投目:さらにゆっくり、余分な苦みを拾わない

3)スピード:3・4投目を遅くする理由
ドリップパックは、構造的に“詰まりやすい”。
焦って注ぐと、お湯が粉を攪拌しすぎて、雑味へ寄る。
だから後半は、静かな糸で、ゆっくり。
味の輪郭を崩さず、甘さだけを残す。

4)仕上げ:抽出が終わる前に外す勇気
ドリップパックは“最後まで落とし切る”ほど雑味が混じりやすい。
最後の数滴に、苦みとえぐみが集まることがある。
「全部落とす」が正義ではない。
香りが綺麗なところで切ると、飲み終わりが澄む。

喫茶叙景文 ~冬の銀座は、光がつめたい~

冬の銀座は、光が冷たい。
ビルの谷間を抜ける風が、頬の表面だけをさらっていく。
コートの襟を指で押さえる仕草が増えるほど、街は「温度」を欲しがる。

催事場の灯りは、外の灰色をいったん忘れさせる。
人の波が床に柔らかい摩擦音を落として、紙袋の角がかすかに鳴る。
香りはそれより先に届く。甘い、焦げた、柑橘の皮のような、
浅煎りの立ち上がりのような――輪郭の違う匂いが、同じ空気に折り重なる。

ブースの前に並ぶパッケージは、色の標本みたいだ。
白は軽い。触れる前から、空気を明るくする。
黒は沈む。夜の底へ沈んだ甘さ、熱の奥にある影。
赤は果実の赤。舌が先に酸を思い出す。
緑は柑橘の皮。切り口のほろ苦さが、香りに混ざる。

この色が、ただのデザインで終わらないのが面白い。
一杯の中に、街が映る。冬の銀座の冷えた空気に、白は羽織りもののように軽く寄り添い、
黒は手袋の内側みたいに体温を守る。赤は、人の心拍を少しだけ上げる。
緑は、終わり際の口を整える。

「コーヒーは気分の道具」――そう言い切るには、ここは少し丁寧すぎる。
気分だけではなく、記憶に触れてくる。何かを「思い出させる」力が、香りにはある。
甘いスイーツの隣に置けば、甘さの輪郭が変わる。
果実の菓子に寄せれば、赤は赤のまま深くなる。柑橘を纏わせれば、緑は苦味を上品にする。
互いが互いを消さず、少しだけ引き上げる。

会場のざわめきの中で、ひとつのドリップが落ちていく時間だけ、世界が静かになる瞬間がある。
湯気が上がり、香りが立ち、紙のカップが温まる。指先に熱が戻る。
たったそれだけのことが、冬の街に対する小さな勝利になる。

帰り道、エスカレーターの手すりは冷たい。外気は相変わらず鋭い。
けれど紙袋の中の色が、家までの距離を少し短くする。白、黒、赤、緑。
今夜の銀座で拾った「温度」が、部屋の明かりの下で、ゆっくりほどけていく。

店舗概要

1 住所:

・Mel Coffee Roasters(本店):大阪府大阪市西区新町1丁目20-4
・Mel Coffee Roasters Osaka(グラングリーン大阪):大阪府大阪市北区大深町5-54(グラングリーン大阪 地下1階 南館)
・MEL COFFEE:大阪府大阪市西区新町1丁目4-21

2 アクセス:

本店:心斎橋出口3より徒歩7分/四ツ橋出口2より徒歩2分/西大橋出口2より徒歩4分 

3 営業時間:

9:00〜22:00/土 10:00〜22:00/日 10:00〜20:00

4 備考:

・コンセプトは「記憶に残るコーヒー」
・銀座の催事出店告知も公式NEWSに掲載あり(会期・提供テーマの告知)。
・ドリップパックは白=浅煎り/黒=中深煎り/赤=エチオピア(ベリー・チェリー系)/緑=コロンビア(柑橘系)。ペアリングはベリー系スイーツ、オランジェットが相性軸

5公式Instagram:
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