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甘さを焙煎で彫り出す|ALL SEASONS COFFEE(神奈川)

人の流れが速い場所ほど、コーヒーは「飲み物」に戻されがちだ。
買って、受け取って、歩きながら飲んで、忘れていく。

でもALL SEASONS COFFEEの前だけ、足が一拍ぶん遅くなる。
黒いバッグ、色の違うラベル、木箱に並ぶドリップバッグ。
お菓子の籠がちゃんと“焼き色”を持っていて、コーヒーと同じ高さで売られている。
メニューには産地とプロセス、フレーバーが簡潔に書かれているのに、なぜか説明過多に見えない。

理由はたぶん単純で、ここには甘さの設計がある。
酸を立てるのでも、香りを叫ばせるのでもなく、甘さを芯にして味を組む。
飲んだ瞬間に「これは何の味か」がわかるように。
この思想が、湯気の向こう側から先に伝わってくる。

第一章|浅煎り好きの“わがまま”を、焙煎で成立させる

「僕は浅煎りが好きなんですけど、ただ僕の場合だと甘さをしっかり出したいというのがあって」
「フレーバーも求めているんですけど、甘さをしっかり出してあげるのがすごく大事で」
「東京にいると結構、浅煎りが…冷めてるお店が多いので…酸味しっかりしてて、ちょっと紅茶っぽい印象がある」
「僕はテイストもしっかり出したい…甘さとか…それと、しっかりどうしてもテイストを出してあげたい」
「飲んでみて、これって何の味って分かるような焙煎をまず心がけております」

この話、静かに刺さる。
浅煎りの世界は、綺麗で、軽くて、明るい。けれど明るさだけが先に出ると、
飲み手は“輪郭の薄い紅茶感”に置き去りにされることがある。
だからALL SEASONS COFFEEは、浅煎りのまま、甘さの床を作る。
香りが浮くための土台。味が言葉になるための芯。

ここでいう甘さは「砂糖っぽさ」じゃない。
果実の熟度の甘さ、カカオの丸み、焼き菓子の香ばしさ
——そういう“味の落ち着き先”としての甘さ。
この甘さがあると、酸は鋭さではなく、透明さとして働く。
そして飲み手は安心して、「何の味か」を探せる。

浅煎りの良さを捨てずに、浅煎りの弱点を焙煎で消す。
それを「好み」で済ませずに、店の思想として語れるのが強い。

第二章|入口はコーヒー、名物はプリン。だから“負けない一杯”を作る

「うちのお店の入りがコーヒー、自家焙煎というのと、プリンがすごく有名で」
「そのプリンのテイストにも合うように、プリンに負けないコーヒーを作りたいと思った」
「だいたいプリンに合うようなテイストで僕は考えています」

名物がある店のコーヒーは、二つの道に分かれる。
①名物に寄り添って、コーヒーが“脇役”になる道。
②名物と並走して、コーヒーが“相棒”になる道。

ALL SEASONS COFFEEは②を選んでいる。
プリンの甘さ、卵の厚み、バニラやカラメルの余韻。
それに対してコーヒーが細いと、プリンだけが勝って終わる。
だから必要なのは、苦味を増やすことじゃなく、味の存在感を増やすこと。
甘さの芯を作って、香りの層を重ねて、プリンと同じ舞台に立つ。

プリンに合うコーヒーは、実は“万人受け”と違う。
プリンの構造がリッチだから、コーヒー側は「軽さ」ではなく「整った厚み」を持つ必要がある。
そこで甘さが効く。苦味で押すとプリンの甘さと衝突するが、甘さで支えるとプリンの輪郭がむしろ立つ。

スイーツを主役にするために、コーヒーを強くする。この逆転の発想が、店の味を一本に束ねている。

第三章|所作メモ:ムラシは“助走距離”

「ドリップの特徴としては、甘さを出すというのが大事で」
「僕が結構大事にしているのはムラシなんですけど、ムラシを適当にする方って結構多い」
「僕は結構丁寧にかけて、ムラシが助走距離みたいな感じ」
「そこを適当にしてしまうと…味が出ずに終わってしまったり、逆に出すぎて終わってしまったり」
「その豆ごとに…(適正を)案内する。豆ごとに聞いてもらえれば、すごく基本になる」

ムラシを「30秒」とか「倍量」とか、数字で覚えるのは楽だ。
でも本質は、豆が“走り出す前のフォーム”を整える時間だ。
助走が短いと跳べない。長すぎると勢いが消える。
だからムラシは、抽出の準備ではなく、抽出そのものの前半だと言っていい。

ALL SEASONS COFFEEが甘さを重視するなら、ムラシが鍵になるのは当然だ。
甘さは、雑に湯を当てても出てこない。
粉の内部まで均一に水が入って、溶ける順番が整って、やっと“丸い甘さ”が立ち上がる。

ここで大事なのは、ムラシを丁寧にすること以上に、
豆ごとにムラシの正解が変わると認めているところ。
それを「聞いてくれれば案内する」と言える店は、経験を出し惜しみしない。

第四章|ペアリングの設計:プリンだけじゃ終わらない

「基本的にはどれでも大丈夫」
「でも豆ごとによって合うテイストのものは必ずあって」
「ハウスブレンドで…基本的にはプリンのテイストに合うもの」
「オールラウンダーっていう…すごくプリンとテイストが合う」

ここで面白いのは、“どれでも合う”と言いながら、ちゃんと合い方の設計を持っていること。
オールラウンダーは名前の通り、基準点になる。
プリンに合わせて設計されたブレンドは、甘さ・香ばしさ・余韻のバランスが崩れにくいから、
イベントの一杯としても強い。飲み手が「どれにしよう」で迷っても、逃げ道がある。
迷いの解像度を上げてくれる“ホーム”みたいな存在。

そして、ここにスイーツ側の話が重なる。

第五章|カヌレのこだわり:コーヒーの邪魔をしない甘さ

「カヌレがスイーツの中ではグランドメニューで、
カヌレとコーヒーはどれでも相性いいようにはしてます。浅煎りでも深煎りでも」
「でもお菓子もお菓子で、味作りはちょっとペアリング意識してる」
「風味も強すぎないようにするとか、やたら甘くするより甘さも控えめにするとか」
「コーヒーの味を阻害しないように」
「あまり重すぎないようにスイーツ作りもしてる。そこは結構意識してるポイント」

カヌレは本来、強い。
外側の焦げの苦味、内側のもっちり、ラムやバニラの香り。作り方次第では、
コーヒーをねじ伏せるスイーツにもなる。

でもALL SEASONS COFFEEは逆方向へ振っている。
甘さ控えめ、風味は強すぎない、重くしない。
つまりカヌレの“主張”を弱めるのではなく、主張の仕方を整えている。

ここがペアリングの肝だ。スイーツを弱くすると、ただ物足りない。
でも主張を整えると、コーヒーの香りが入る余白が生まれる。
甘さが控えめな分、コーヒーの甘さが立ち、重くない分、後味で香りが伸びる。

スイーツがコーヒーを引き立てるのではなく、コーヒーがスイーツを“完成させる”ように設計する。
この発想がある店は、強い。飲み物と食べ物を別々に売っていない。

第六章|ラインナップの気配:イベントのメニューから見えるもの

メニューには、ブレンドとシングルが並ぶ。
たとえばブレンドは、ブラウンシュガー/カシス/ドライマンゴー。
甘さの言語化が、最初から前に出る。
シングルには、ブラックハニーのコスタリカ(果実感とスパイスの気配)、
ウォッシュドのコロンビア(フローラルとレモングラス、黄桃)、エチオピアのレモンやジャスミンティー。
この並びを見るだけで、店が「酸=尖り」にしないで、甘さと香りのレイヤーでまとめたいのが伝わる。

スイーツはクッキー、バナナブレッド。
日常の焼き菓子”の顔をしているけれど、さっきのカヌレの話を聞いたあとだと、
ここにも「コーヒーを阻害しない設計」が入っているように見える。
甘さと重さのバランス。香りの強さ。後味の長さ。
その全部が、コーヒーの余韻の席を空けるために整えられている。

第七章|家での再現TIP:甘さを出すための“3つの約束”

1) ムラシを「助走」として扱う
粉全体に均一に湯を回し、湯だまりを作らない。
ムラシを雑にすると、甘さは出にくい。
最初の一分で、その一杯の骨格が決まる。

2) 注ぎは「乱さない」ことを優先する
強い湯筋でえぐり取るより、層を保ちながら溶かす。
甘さを狙うほど、抽出は“速さ”より“整い”になる。
味が暴れると、甘さより先に雑味が出る。

3) 豆(またはドリップバッグ)ごとの適正に寄せる
店が言う通り、豆で正解は変わる。
浅煎り寄りなら、香りを潰さない温度と速度。
深煎り寄りなら、重さを出しつつ過抽出を避ける速度。
迷ったら、店に聞ける導線があるのがこの店の強さだ。

第八章|ペアリング|甘さの席を空ける

プリン × オールラウンダー:名物に“負けない”設計。甘さと香ばしさの重なりが強い。
カヌレ × どのコーヒーでも:浅煎りでも深煎りでも成立するよう、
 スイーツ側が香りと甘さを整えている。
クッキー/バナナブレッド × フルーティー系:果実香の輪郭を邪魔しない焼き菓子は、
 香りの伸びに味方する。

ここでのコツは一つ。
合わせる”というより、コーヒーが通る道を残す。
甘さ控えめ、風味強すぎない、重すぎない。
この設計に乗っかると、家でもペアリングの成功率が上がる。

喫茶叙景文|テントの前で、香りが先に立つ

テントの布が風を受けて、音を少しだけ丸くする。
湯気の向こうで、甘さが先に立ち上がる。砂糖ではない、熟した果実や焼き目の香りに似た甘さ。
浅煎りの光だけを追いかけず、甘さの影を置く。影があるから、香りが輪郭を持つ。
プリンに負けない一杯、という言葉が、強がりではなく設計としてここにある。
ムラシは助走距離。助走が整うと、味は跳ぶ。
カヌレは派手に勝たないように作られていて、その控えめが、コーヒーの余韻を長くする。
飲み終わっても、口の中に“何の味か”が残る。
それが、次の一口を呼ぶ。祝祭は派手じゃない。静かに、確実に、繰り返される。
ケイさんが言ってくれた「平均13分」問題、今回は意識的に厚みを足した。
現場の思想(甘さ・プリン・ムラシ・カヌレ)を芯にして、再現と買い物と余韻まで一本で繋いである。

店舗概要

1 住所:

新宿三丁目店:東京都新宿区新宿2-7-7 1F
池袋店:東京都豊島区西池袋5-14-3 1F

2 アクセス:

最寄駅からの徒歩圏(詳細は公式の最新案内を要確認)

3 営業時間:

新宿三丁目店:9:00–19:00
池袋店:平日 12:00–19:00/土日祝 10:00–19:00

4 備考:

イベント出店あり(今回の写真は出店ブースの様子)
ドリップバッグは 内容量10g/蒸らし30秒/目安150ml が公式の作り方として提示されていた。

5公式Instagram:
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