鎌倉の小町は、歩幅が勝手に早くなる通りです。
観光の速度、買い物の速度、言葉の速度。気づけば、呼吸が浅くなる。
その流れから少しだけ外れたところで、湯気が“ひとつ低い音”で立つ店に出会った。
深呼吸を促すように、香りが先に届く。飲む前から、身体がほどけていく。
「コーヒーの概念を変えようとしている」
その言葉は大げさではなく、ちゃんと味の設計に落ちていた。
第一章|コーヒーを“飲み物”から“体験”へ
取材で印象的だったのは、言い切りの強さよりも、調整の繊細さであった。
ignisの軸は、浅煎り寄り。ただ軽いのではなく、ティーライク(お茶のようにするりと飲める口当たり)
へ寄せていく意思が見える。
店の強みを尋ねると、こう返ってきた。
「コーヒーの概念を変えようとしています」
「全体的に浅煎りのお豆です」
「飲みやすい、ティーライクのお豆ですね」
“浅煎り=酸っぱい”の短絡を避けて、香りの幅と飲み口の透明さを取りにいく。
ここで目指しているのは、尖った驚きより、毎日飲める特別だと感じた。

第二章|豆の設計:軽さの中に、余韻の密度を残す
浅煎りの魅力は、明るさだけではありません。
一口目の印象を軽くしても、二口目以降で物足りなくなったら、体験としては終わってしまう。
ignisの“ティーライク”は、そこで止まりません。
香りの立ち上がりは軽やかで、飲み終わった後の鼻腔に残る線は細い。
でも、その線が長い。ここが肝です。
軽いのに、消えない。
この矛盾を成立させるのは、焙煎だけでなく、抽出温度やレシピの案内まで
含めた“提供設計”だと思います。

第三章|お土産の一杯:ドリップパック2種の記録
1)Rwanda / Rulindo Kinini(Washed, Bourbon)
Country:Rwanda
Region / Lot:Rulindo Kinini
Variety:Bourbon
Process:Washed
内容量:12g
洗練されたウォッシュドは、浅煎りの“明るさ”を雑味なく見せてくれます。
柑橘の皮のような香りが出やすく、後口がきれいに終わるタイプ。
ケーキと合わせるなら、焼き菓子よりも、カカオの強いものが相性を引き出しやすい印象です。
2)Mixed “Floral”(Ethiopia / Rwanda)
Country:Ethiopia, Rwanda
Variety:Heirloom / Bourbon
Process:Natural, Washed, Lavender Infused
内容量:12g
“Floral”の名の通り、香りが主役。
さらに Lavender Infused が入ることで、花のニュアンスが“偶然の香り”
ではなく“設計された香り”として立ち上がります。
甘い菓子に合わせても香り負けしにくいので、チョコレート系の提案とつながります。

所作メモ|抽出ポイント(店の回答+持ち帰り向け)
ignisの再現TIPは、かなり明確でした。
・湯温は90℃前後
・沸騰したては避ける(苦味が出やすい)
・詳細は公式Instagramの動画で案内している
沸騰湯のまま突っ込むと、浅煎りは“明るさ”より先に“硬さ”が出ます。
だから 温度を落として、香りの表情を守る。この発想が、店のコンセプトと一致していました。
家での再現TIP|「90℃」を現実に落とす
温度計がなくても、90℃は作れるように。ズレにくい手順で。
1:沸騰 → ふたを開けて待つ
やかん・ケトルの種類で差は出ますが、目安は30〜60秒。
2:その間に、カップを湯通し
“温度を落とす”のに、カップが冷えていると一気に奪われます。
3:ドリップパックは、袋の表記湯量に合わせる
無理に濃くしない方が、ティーライクが活きます。
4:抽出後は、一拍おいて香りを吸う
温度が少し落ちた瞬間、花や果実のニュアンスが立ちます。
浅煎りは、急がせると黙る。
逆に、温度と時間を整えると、こちらに話しかけてくる。

ペアリング|甘さで、苦味を抱きしめる
スイーツ:チョコレート系、重ためのケーキでもいける
食事:トースト、サンドイッチ系がおすすめ
浅煎りの軽さは、甘いものに負けそうに見える。
でも“香りの密度”があると、甘さと並走できる。
特に Floral 系は、チョコの奥行きに花が差し込み、味が“平面”から“立体”になります。
喫茶叙景文 ~小町の路地で、湯気が一段やわらぐ~
鎌倉の空気は、潮の粒を含んでいる。
小町の通りを抜けた先で、甘い匂いが風にほどけ、誰かの笑い声が角を曲がる。
その賑わいの端っこに、火種みたいな店がある。大きく燃え上がる火ではない。手のひらに移せるくらいの、赤い小さな熱。
カップの縁に鼻を近づけると、香りが先に言葉を持ってくる。
果実、花、皮、乾いた空気。
飲む前に、喉が静かになる。呼吸がひとつ深くなる。
湯は熱すぎない。
急がせない温度が、浅い焙煎の輪郭を守る。
軽いのに消えない余韻は、飲み終えたあとにやっと本気を出す。
口の中に残るのは味ではなく、ふとした記憶みたいなもの。誰かの部屋の窓辺、洗い立ての布、春の手前の光。
帰り道、観光の速度に戻っても、胸の内側だけが置いていかれない。
小さな火を持ったまま、街を歩ける。
それは“特別な一杯”の派手さではなく、日常を少しだけ良くする、確かな火加減だった。

店舗概要
- 1 住所:
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・(本店表記)東京都文京区千駄木 3-44-11
・(鎌倉表記)神奈川県鎌倉市小町 1-5-21 - 2 アクセス:
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鎌倉・小町エリア(徒歩導線は混雑で変わるため、当日は地図アプリ推奨)
- 3 営業時間:
-
平日11:00〜18:00
土日祝09:00〜18:00
満月のみ〜21:00まで - 4 備考:
-
お湯は90℃前後推奨。沸騰湯だと苦味が出やすい。online shop / Instagram導線あり。
- 5公式Instagram:










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