HMJの会場は、歩く人の熱と、紙袋の擦れる音と、遠くの笑いで満ちている。
その流れの中で、kobayashi pottery studioの棚だけは、なぜか“静か”だった。
木の棚に並ぶカップは、色が主張しすぎないのに、目が離せない。青、薄緑、砂色、土の赤。
器がこちらを呼ぶというより、こちらの生活が、器に照らされて見えるような気がした。
器はモノなのに、時間の道具でもある。
このブースは、その事実をさらっと突きつけてくる。

第一章|「暮らしに寄り添う器」という、過不足のない宣言
kobayashi pottery studioが掲げるコンセプトは、「暮らしに寄り添う器」。
言葉としてはやさしい。けれど、HMJの棚を見ればわかる。やさしさは、
甘さじゃない。形の輪郭が、ちゃんと“考え抜かれた結果”として置かれている。
カップの取っ手は握りやすく、口元は薄い。
色は豊富なのに、部屋から浮かない。
皿やボウルは、料理を飾るというより、料理を落ち着かせる。
派手じゃないのに、生活に入った瞬間から“頼れる”感じがする。
このスタジオが強いのは、そこ。

第二章|飲み口は、釉薬と形で二度決まる
まず、口当たり。
釉薬で変わる。
「口元は釉薬によって、ツルッとしたものとか、
マット系の釉薬だとザラッとするので…口当たりはお好みだと思うんですけども」
そして、もう一段深い工夫として、“形”で香りの通り道を作る。
「口当たりじゃなくて、例えば形をくくった形にすることによって、
コーヒーを飲むときに鼻にダイレクトに香りが出すような工夫はしています」
ここ、控えめに言って最高です。コーヒーって、舌だけの飲み物じゃなくて、
鼻腔の体験が半分以上。だから“器が香りのレールになる”という発想は、
コーヒー好きに刺さる。
飲み口の設計は、味の設計に直結する。

第三章|薄さは正義じゃない。飲み物ごとの最適解がある
見た目はすっきり、でも話を聞くと思想はしなやか。
「肉厚自体は基本的に薄く作るようにしているんですけども、
飲み物によって特性があるので…厚ぼったり薄くした方がいいとか、
ぽってりした方がいいとか…その辺はお客さんの好みということでやっています」
薄い=偉い、じゃない。
熱の伝わり方、唇に当たる感触、飲み物の温度変化、そして手に持つ安心感。
その全部を、“選べる”ようにしてある。
棚に色が多いのも、同じ理由。
「結構色展開をさせていただいているので…色で悩まれる方もいらっしゃる」
色で悩むって、生活を想像している証拠だ。
この悩みを生む器は、もう半分、暮らしに入っている。

第四章|「いつ飲むか」ではなく「どう生きるか」に寄り添う
器の使いどきは、作り手が決めない。
でも、背中を押す言葉はくれる。
「朝のコーヒーという方もいらっしゃるので…その辺はもうお客様の好み」
「コーヒーを飲まれる方はカップにこだわったりするので、
その一つに加えていただければ」
「朝向け」「夜向け」と断言しない。
その代わり、“あなたの時間に入り込む余地”を器に残している。

第五章|コーヒーのためのサイズ学:150ccという美学、300ccという実務
「コーヒーカップというのはだいたい150ccくらいが一般的」
「これは満水で200cc入るので、使用量としては150から180くらい」
「ユマグのほうがだいたい300ccくらい」
「冷めないうちに飲みきりたい方は、小さいサイズをおすすめ」
つまり、選び方はこうなる。
・150〜180cc:温かいうちに飲みきる派。香りのピークを逃さない。
・300cc前後(ユマグ):何度も淹れるのが面倒派。仕事中や作業中の相棒。
“香りを取りに行くなら小さめ、生活を回すなら大きめ”。

所作メモ|香りを立てる器の使い方
・口元が“くくっている”形は、香りが逃げにくい。鼻へまとまって上がってくる。
・マット釉は、唇の感触が“やわらかい摩擦”になる。飲み口の印象が変わる。
・薄づくりは、口当たりが軽い。熱さの感じ方も鋭くなる。
・ぽってりは、手の安心感が増える。温度変化の体感もゆっくりになる。
コーヒーの味を変えるのは、豆だけじゃない。器もまた抽出の一部。
喫茶叙景文 ~棚の前で、時間が少し遅くなる~
棚の前で、ひとは少しだけ立ち止まる。
器は小さく、会場は広いのに。
それでも、カップの輪郭を目でなぞっているうちに、生活の方が先に浮かんでくる。
朝の光、夜の机、作業の途中でふっと立ち上る香り。
“飲む”という行為が、実は呼吸の仕方だったことを思い出す。
くくった口元は、香りを逃がさない。
逃がさないまま、鼻へ渡す。
たったそれだけのことで、コーヒーは別の飲み物みたいになる。
器が変えるのは、味ではなく、時間の流れ方だ。
あの日のHMJのざわめきの中で、
いちばん静かだったのは、カップの内側に溜まる空気だったのかもしれない。

店舗概要
- 1 住所:
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群馬県太田市(拠点)
- 2 アクセス:
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オンラインショップ/取扱店/イベント出展(HMJなど)
- 3 営業時間:
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ンライン販売・出展スケジュールに準拠
- 4 備考:
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「暮らしに寄り添う器」をコンセプトに、色展開が豊富。コーヒー用途は香りの導線(口元の“くくり”)が特徴。
- 5公式Instagram:

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