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荒川土手でソフトクリームを ―― サイクリストとご近所さんの寄り道基地「KARU」

 荒川の土手で見つけた、黄色いビルが夕陽を受けてやわらかく光っていた。
「SAN-ESU BASE 羽根倉通り」と書かれた建物の2階に、小さなソフト
クリーム屋「KARU」がある。サイクリストのヘルメット、近所の親子。散歩
帰りの人たち。いろんな足音が出入りしては、カップを片手に窓際へ吸い込ま
れていく。

 ソフトクリームとコーヒーは、どちらも一杯300円。
 体を動かしたあとに迷いなく寄れる価格だ。カップの中には、店主の
「甘いものが好き」という単純でまっすぐな動機と、自転車好きならではの
目線が重なっている。

第一章 自転車問屋から生まれた、土手のソフトクリーム屋

 KARU運営しているのは、自転車パーツの代理店「東京サンエス」。
建物自体も同社の拠点で、2階の一角をカフェスペースとして開放している。

 店主はもともとソフトクリームが大好きで、「いつかやってみたい」と胸
の内で温めてきたという。ただ、本業は自転車の卸し問屋。
 夢は夢のまま、現実と交わらにいた。

 そこに「荒川サイクリングロード」・「羽根倉通り」・「東京サンエスの拠点」
という三つの条件が重なった。サイクリストが行き交う土手のすぐそばで、
自転車を軸にした会社が、人の集まる場所をつくる。ソフトクリーム屋をやる
理由が、一気にに具体的な形を持ち始めた。

第二章 さっぱりソフトと、トッピングで選べる楽しさ

 KARUの主役は、さっぱりとしたソフトクリーム。
サイクリストは長い距離を走って、汗をかき、疲れた体で店に着く。そん
なときに欲しいのは、濃厚で重たい乳脂肪ではなく、すっと体に入ってく
る軽さだと考えた。

 ソフトクリームのベースは、メーカーの数十種類ある味の中から、店主
とコーヒー担当のスタッフがメーカーに出向いて選んだもの。
「サイクリストのために合うのはどれだろう」と、いくつもの候補から絞
り込み、試食して「せーの」で指差したら、ふたりとも同じ味だったという。

 ベースをあえてさっぱりさせた分、トッピングで自由に選べる余白がある。
シナモン、フルーツソース、黒蜜抹茶、地域のお店と組んだコラボトッピン
グ….。季節やその日食べたいものに合わせて、「店主のきまぐれ」ソフトが
生まれていく。


 たとえば、肌寒くなってくる頃には、シナモンをかけたソフトが登場する。
カップの上にこんもりとのった白い山に、シナモンの粉雪がふわりと積もる。
さっぱりしたミルクにスパイスの温かさが重なって、走った後にちょうどいい
余韻だけを残してくれる。

第三章 長野の喫茶店から届く、少し苦めの一杯

 コーヒーは店主とコーヒー担当スタッフがともに惚れ込んだ、長野県の喫茶店
の味をベースにしている。ふたりとも「酸味より、苦みのしっかりしたコーヒー
が好き」
という好みが重なり、その喫茶店の豆を焙煎仕立てで送って貰っている。

 営業日は二通りの顔を持つ。
コーヒーを担当スタッフがいる日は、ペーパーとペリカンポットを使ったハンド
ドリップ。
狙ったところにお湯を落とせる注ぎ口で、好みの苦みを保ちながら
クリアな後味に整えてくれる。

 一方、そのスタッフがいない日は、業務用の抽出機で提供する。
「同じ味を毎回出しやすいように」と、豆の選定やレシピはハンドドリップを
ベースに作られていて、機械抽出でもすっきりと飲めるようになっている。
サイクリング中の一杯としても、ソフトクリームと一緒に楽しむ一杯としても、
ちょうどいい満足感だ。

第四章 垣根の前で、出会いが交わる場所

 店のこんせは、店主の言葉を借りれば「垣根がなく、みんなが集える
場所」。
東京サンエスの本社であることから、もちろんサイクリストが多く訪れ
る。けれど、店主がうれしいと感じるのは、「ここにあってよかった」・
「ここで人と出会えた」と言われる瞬間
だという。

 店内には、ワンバイエスなどのスポーツバイクが展示されている。
自転車に乗らない人から見れば、「ちょっと特別なもの」に見えるかもし
れない。でも窓際でソフトを食べているうちに、自転車談義が自然と始ま
る。走る人と暮らす人が、同じテーブルを囲んでいる光景が、ここではご
くふつうの日常だ。

 KARUは新しいことを次々に増やすよりも、「続けること」を大事にして
いる。
季節が変わればトッピングも少し変わる。店主が「今これが食べたい」と
思ったものや、自分でおいしいと感じた組み合わせを、限定メニューとし
てそっと出していく。冬には、近隣のパン屋のラスクを添えたクラムチャ
ウダーが登場したりもする。そんな小さな変化を追いかけるのも、この店
の楽しみ方のひとつだ。

所作メモ –KARUのソフトとコーヒーを楽しむ順番

  •   ソフトは、まずトッピングがかかった部分を一口。
    シナモンやフルーツソースの「今日の気分」が一番濃く出ているところ
    から入ると、店主の遊び心が伝わりやすい。
  •  途中で一度、下のほうのプレーンな部分だけをすくって味わう。
    ベースがさっぱりしているからこそ、トッピングの個性が映えると実感
    できる。
  •  コーヒーは、ソフトを半分くらい食べたタイミングで。
    少し冷えた口の中に、苦みのあるホットコーヒーを流し込むと、簡易アフォ
    ガードのような余韻が立ち上がる。

ペアリング サイクリスト目線の甘いもの

  • シナモン系トッピングソフト
     肌寒い季節のライド帰りに。体が温まるスパイス感がうれしい。
  • フルーツソースのソフト
     夏場や汗をたくさんかいた後に。ビタミンを連想させる酸味と色合い
    が、気分をリセットしてくれる。
  • ソフト+ホットコーヒー
     走行距離が長い日や、ゆっくりしゃべっていきたいときに。糖分と
    カフェインを同時に補給できる、KARUらしい組み合わせ。

喫茶叙景文 ~土手の夕焼けと、さっぱりソフト~

 夕暮れの土手を登ると、風に押されるように自転車が滑っていく。
ハンドルの先に、緑の丸いロゴが貼られたカップがいくつも並ぶ窓が見える。

 階段を上がると、室内には細いタイヤのロードバイクが静かに立っている。
ソフトクリームの白い渦が、走ってきた距離とは関係なく、すっと目に入る。

 カウンター越しに「今日はシナモンの気分で」と笑う店主の声がする。
カップに立てたハート型のウエハースが小さな旗みたいに揺れる。

 外を見れば、土手の斜面を押し上げるように自転車が次々と現れ、
店の前で止まり、また走り出していく。

 ソフトの甘さと、コーヒーの苦さのあいだで舌を遊ばせながら、
見知らぬサイクリストと、いつもの散歩道の人が同じテーブルを囲む。

 ここはゴールではなく、道の途中に置かれた小さな中継地点。
けれどその寄り道が、日々の風景に少しだけ祝祭を足している。

基本情報

1住所:

埼玉県志木市上宗岡3-12-10 SAN-ESU 羽根倉通り 2階

2アクセス:

荒川サイクリングロード・羽根倉橋そば。左岸の秋ヶ瀬公園から羽根倉
橋を渡り、北側歩道を進んだ羽根倉通り沿いの黄色いビル。
駐車スペースあり。

3営業時間:
  • 主に土日営業
  • 3~10月:9:00~16:00
  • 11~2月:10:00~15:30
4備考:
  • ソフトクリーム、フルーツソーダ、コーヒーが各300円前後の
    リーズナブルな価格帯。
  • 店内に自転車展示の「UXルーム」が併設されており、サイクルパーツを
    眺めながら休憩できる。
5公式サイト:
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