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古家が語りはじめた日ーー八右衛門、はじまりの物語

 朝霞市・浜崎。祖父の家を壊さず活かしたいーーそんな思いから、古民家の
風合いを残した(かふぇぎゃらりー&陶芸工房 八右衛門 )は生まれました。
お店を切り盛りするのは、管理栄養士の資格を持ち、陶芸も学んできた店主。

 カフェと工房を同時に立ち上げ、地域の粘土で器を焼く「浜崎焼き」にも挑戦。
わくわくドーム近くの畑で採れる粘土質の土を用い、今ではふるさと納税の返礼品
にも選ばれるようになりました。 
 
 店主の祖父の「八右衛門」から。受け継いだ家で、手づくりの器と、体にやさしい
食事、香り高いドリップコーヒーを。ここは、ゆっくりと時間を過ごすための小さな
拠点。

第一章 この家を壊さずに ーー 八右衛門、はじまりの話

  「壊してしまうには、あまりにも思い出が詰まっていたんですよ」
ーー静かに語るその声には、時間を超えて流れる家族の息づかいが宿っていた。

 年月を経て、使われなくなった家を前に店主は思った。 
  「全部を畳んで壊すのは、なんだか違う気がする。」
 
 外では管理栄養士として働きながら、陶芸も学んでいた店主。
休日には古民家カフェを巡り歩き、木と光の取り合わせ、器の手触り、
そこに流れる”人の時間“を確かめるように過ごしていた。
そして、あるときふとーーこの家でも、そんな空間をつくられたらと感じた。

  「自分の手で形にできたらいいな」
  「壊す前に、この家にもう一度息を吹き込みたい」

 そうして生まれたのが、かふぇぎゃらりー&陶芸工房 八右衛門

 店名の「 八右衛門」は店主の祖父の名前に由来する
“八”は末広がりを意味し、”右衛門”は家を守る象徴。
まるで、代々この家を見守ってきた家の魂を再び呼び戻すように、
その名は迷いなく掲げられた。

 喫茶と陶芸ーーふたつの営みを同時に始めたのも、この家のの姿に理由がある。
器を作るの”手仕事”と珈琲を淹れる”ひととき”。
どちらも人とのぬくもりが通うものであり、
家の記憶を形にするには、その両方が必要だった。

 改装は最低限。
ここでは「過去」と「今」が、まるで友だちのようにならんでいる。

土が語る、浜崎焼きのはじまり

八右衛門の裏手に広がる畑。
その土を一振りすれば指先にまとわりつく柔らかな粘り。
ーーここから、陶芸「浜崎焼き」の物語が始まった。

 「このあたり、昔は海だったらしい話なの」
そう語るのは、お母さまの静かな声。
地名に残る”浜”の文字はかつての海辺の名残をそっと教えてれる。
その名を受け継ぐようにして、「浜崎焼き」は生まれた。
 
 粘土は、家からそう遠くないわくわくドームの畑で採れる。
重機で掘り起こし土の中には、まだ湿り気を帯びた小さな粒子が眠って
いて、火を入れるとその粒が光を帯びる。
まるで、この地そのものが「器」になるような瞬間だ。

  「 地元の土で何かをつくれないかと思ったです。
  それで掘ってみたら、本当に焼き物になる土が出てきたんです。」

 その言葉には、驚きと喜び、そして少しの誇りが混じっていた。

 浜崎焼きは、ただの焼き物ではない。
朝霞の土“に再び命を宿した記憶の器だ
色はやわらかく、質感は少しざらつきがあって、指先に残る温度が心地いい。
その不揃いな表情こそが、この土地の呼吸のようでもある。

 やがて「浜崎焼き」は、ふるさと納税の返礼品にも選ばれるほどになった。
遠く離れた土地の人が、箱を開け、指でその肌をなぞる。
そこに触れることで、誰かが見知ぬ朝霞の風を感じるーー
そんな静かな繋がりを、この焼き物は運んでいる。



 陶芸工房の一角では、今日もろくろの音が低く響く。
焼きの炎がゆらぎ、窯の中に”土の記憶“が息づく。
その隣では、コーヒーの香りがゆっくりと濃い始めていた。

第三章 やさしい食卓の記憶

 ランチタイムに運ばれてくるのは、
小鉢が並んだ木のトレイーー「気まぐれ御前」。
旬の野菜、丁寧に出汁を取ったみそ汁、
彩りを添える小鉢。
それはまるで、家庭の食卓を再現したような温もりに満ちている。

 「 陶芸教室の方たちが毎週食べに来て下さって。
 だから、体にやさしく、飽きないように御前にしたんです。」

 店主は管理栄養士としての経験を生かし、
野菜を中心としたメニューを考案した。
調味料は控えめに、出汁の香りと素材の甘みを生かす。
常連客たちはその優しさに惹かれ、
「今日の御前、何だろう」と笑顔で席につく。

 国産の食材を使い、添加物は加えない。
派手さよりも、毎日食べられる安心感を大切にしている。
御前を盛る器も浜崎焼き。
この土地の土で生まれた器にこの土地の食材をのせるーー
それはまるで、朝霞という場所そのものを味わう時間のようだった。

第四章 香りの記憶、カップの中のやさしさ

 コーヒーはドリップ。
豆は川越の「ラック珈琲」から仕入れている。
開店前、店主の母は豆屋で淹れ方を教わり、

  「ドリップで淹れると香りが生きるよ」
 という言葉を胸に刻んだ。

 ”マイルド“は浅煎りで軽やかに、
 ”ストロング“は深煎りでしっかりとしたコク。
派手な香ばしさではなく、食後の余韻にそっと寄り添うような穏やかな味。

 コーヒーを注ぐカップも浜崎焼き。
手のひらに馴染むぬくもりと、土肌の素朴さが、一杯の珈琲をより深くしている。



 そしてデザート。
定番のわらび餅やおしるこに加え、週替わりのケーキが心を和ませる。
シフォンケーキの週もあれば、ケーキの週もある。

  「常連さんが飽きないようにね。」
 と笑うその声に、店のリズムがある。

 季節のジャムを練り込んだシフォンケーキは、ふわりと軽く、
口に入れると、まるで春風のように溶けていく。
甘さ控えめの理由は、
 「コーヒーと合わせたときの調和を大事にしているから」。
家庭的でやさしい味わいが、この店の空気そのものを象徴していた。
  

最後に ー 土と光と、ゆっくり流れる時間 -

 午後の光が障子を透け、器の影がゆらめく。
店内にはコーヒーの香りと土のぬくもりがしずかに満ち、
窓辺では、陶器の花入れに季節の花が寄り添う。

 店主が作り始めた八右衛門。
店主の娘さんもその温もりを受け継ぎ、変わらない時間を守っている。
ここでは、時間もまた”“のように育っていく。

 ゆっくりと流れる午後、
カップを置く音、風の音、笑い声。
それらすべてが、日常の美しい欠片として
八右衛門の空間を満たしていた。

  「時間を気にせず、ゆっくりしてほしいんです。」

 その言葉の通り、
この場所では、時計の針よりも心の鼓動がゆっくり進む。
八右衛門は、今日も静かに息づくーー
土と光と、人の手のあたたかさ“のなかで。

店舗概要

1住所:

埼玉県 朝霞市 浜崎 4-5-54

2アクセス:

武蔵野線「北朝霞」・東武東上線「朝霞台」より徒歩10分

3営業日:

木~日 11:00~16:00(ラストオーダー 15:30)

4特徴:

・古民家風の雰囲気をもつ一軒家カフェ+ギャラリー+陶芸工房
・ メニューは「埼玉県特別栽培産物」や地場野菜を使った健康志向のランチが中心。
 管理栄養士・野菜ソムリエ監修

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