志木の住宅街のはずれ、古い蔵を生かした小さなコーヒースタンドがあります。
木の扉を開けると、床に積まれて薪、鉄のストーブ、黒板に書かれた”今日のコーヒー“。
店は多くを語りません。抽出も豆のことも、必要以上には明かさないーー
けれどその沈黙が不思議と心地よく、湯気の向こうに”余白”が生まれます。厚手で
ずっしりとしたマグを手に、落ちる一滴をただ待つ時間。その静けさこそ、この店一番
のごちそうだと感じました。
第一章 蔵の奥で火と黒板に迎えられる
外観は古材の質感を残したままの蔵。小さな”OPEN”の札。木のスロープ、きしむ床板。
中に入れば、薪のストーブのそばに割った薪が置かれ、奥にはハンモックが揺らぎます。
カウンターの脇の黒板にはシンプルなメニューと”今日のコーヒー”の
産地メモ(訪問日はブラジル系の表記)だけ。
装飾を削いだ分、音と匂いがよく届きます。ドリッパーに湯が落ち、静けさが抽出のリズムになる
ーーそんな空間づくりです。

第二章 “秘密主義の一杯”を観察する
抽出はハンドドリップ。細かなレシピや細部は店の流儀で非公開ですが、
カップから立つ香りは丸く、焙煎は中煎り寄りの印象。酸は控えめで、ナッツを思わせる香味
と滑らかな口当たり。
厚みのあるマグは保温性が高く、手に持った重みが一口ごとの満足感を少しだけ増してくれ
ます。
黒板には”本日の豆“”豆売りもあり“の案内も。数値や細部ではなく、いまこの場でおいしいか
ーーいかに集中する姿勢が伝わります。


第三章 蔵に流れる”間”を味わう
席に着くと、まず手に伝わるマグの重みで心が落ち着きます。厚手の縁は口当たりがやさしく、
温度をゆっくり渡してくれます。
室内には薪ストーブと割木、梁の木目。音は最小限で抽出の音とカップが卓に触れる音がよく響きます。
こちらのお店はコーヒーの細かな解説をあまり語りません。その分、飲み手が自分の感覚で
向き合える”間“が確保されています。
忙しさから距離を置きたい日に、とても相性のいい空間です。


第四章 黒板t小さな掲示が教えてくれること
メニューは黒板でシンプルに掲示されています。
訪れた日のハンドドリップコーヒー(S 320円/M 390円)
デカフェは+110円
カフェオレ440円、ミルク250円、ピリエ220円 など
壁の掲示「今日のコーヒー」には、その日の豆の情報が簡潔に載ります。
訪問日はブラジルの農園名と精製・標高・品種「イエローブルボン」まで記され、
フレーバーノートは青りんごやカシューナッツ、なめらかな口当たりといった表現でした。
豆の販売(200g 1,060円)も案内があり、気に入ったら持ち帰れる導線です。
必要十分の情報だけを差し出し、味はカップの中で確かめてください。
というスタンスが一貫しています。


第五章 楽しみ方のヒント
- 1: サイズは気分で、さっと余韻だけ掬うなら”S”、腰を据えるなら”M”がおすすめです。
- 2: 席選びも一杯の一部。薪ストーブの近くは体感温度が上がり、香りの立ち上がりが
柔らかく感じられます。光の入る席では色調の変化がよく見えます。 - 3: ”今日のコーヒー”をチェック。産地や精製の掲示は短いですが、飲むのイメージ
づくりに役立ちます。 - 4: マグの重みを楽しむ。口縁の厚みと重量感が、味の印象を穏やかに整えてくれます。
手の中で温度の変化を確かめながら飲むと、カップが一層愛おしく感じられます。 - 5: 豆の購入は出入口で。気に入ったら200gを。家でも”蔵の静けさ”を少し持ちけれます。


最後に
扉が閉まる。外のざわめきは木目の向こうへ退き、蔵の呼吸だけが残る。
薪は割られ、鉄の腹に小さく火の名残。
黒板の白は、粉のように乾いて軽い。
マグを持ち上げると、掌に重さが残る。熱は鈍く、やさしく、骨まで届く。
一滴が落ち、音が消える。
言葉を足さない店の沈黙が、飲む人の心に余白をつくる。
ここではただ、湯気の見送り。苦みと甘みの間に腰を下ろす。
外へ出るとき、ポケットには小さな温度が残っている。
店舗概要
- 1住所:
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埼玉県 志木市 1-6-13
- 2アクセス:
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東武東上線「志木」駅東口方面から市民会館側へ
- 3営業日:
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月・水・金の平日営業(土日祝は休み) 10:00~15:00 (臨時変更あり)
- 4特徴:
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約130年前の醬油蔵の「麹室(こうじむろ)」をセルフリノベーションした
広い空間。ローチェアやハンモックも置かれ、静かに過ごせる”隠れ家トーン”












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