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旧蔵の影に、ミルクが白くほどける|50 COFFEE & ROASTERY(さいたま COFFEE FESTIVAL)

白いテント布が光を反射し、足元の石畳が乾いた音を返す。
賑わいは横に流れていくのに、ブースの前だけ、時間の粒が少し大きい。

黒い看板。
「50 COFFEE & ROASTERY」という数字の立ち方が、どこか潔い。
雑多なイベントの景色の中で、店はいつも“拠点”の顔を見せる。
深谷、七ツ梅酒造跡地。古い場所に焙煎の熱が入ると、空気が少しだけ
落ち着く――そんな背景が、黒の余白から滲む。

一杯だけを売っていない。場所の匂いを、家まで連れて帰る設計。

第一章|「50」という数字:旧蔵を“焙煎所”に変える力

イベント会場で出会う店は、しばしば“顔だけ”を持ってくる。
看板、ロゴ、数種類の豆名、あとは湯気。
けれど50は、顔だけではなく拠点の空気を連れてくる。

深谷・七ツ梅酒造跡地。
その名は単なる所在地ではなく、味の設計に影を落とす。
酒蔵跡地という言葉に含まれるのは、厚い壁、湿度の記憶、光の入り方、
そして“昔から続く場所”の呼吸。
そこに焙煎の熱が入ると、古さは装飾ではなくなる。
香りの層が増え、味の奥行きが、時間の奥行きとして立ち上がる。

クラシカル”という言葉が、ここでは軽くない。
苦味を強くするための便利な形容ではなく、輪郭の置き方そのもの。
強すぎないが、薄くもない。

飲みやすさの裏側に、場所の重みが透けるような設計。
そして「50」という数字は、その設計を短い言葉に圧縮する符号に見える。
大きく主張しないのに、見失いにくい。
イベントの喧騒の中で、拠点の座標を固定してくれる。
あの黒い板は、道標というより“帰る場所の名札”。

二章|看板の前:列の体温と、黒い文字の静けさ

列は、イベントの温度を映す。
急いでいる人の足取り、迷っている人の目線、次のブースを計算する横顔。
けれど50の前では、列の焦りが少しだけ弱まる。
それは店の“間”が、こちらの呼吸を一拍遅らせるから。

看板の黒が強いぶん、周囲の色は薄く見える。
誰かの笑い声も、遠くに聞こえる。
視界の中心が、自然に抽出へ寄っていく。

テントの奥のエスプレッソマシンは、主役の顔をしている。
スチームは短く鋭く、金属は冷たく光る。
忙しいイベントの中で、抽出だけが焦らない。
この“焦らなさ”は技術でもあるし、思想でもある。

カップに注がれる液体は、音が少ない。
音が少ないほど、味は落ち着く。
そして落ち着いた味は、会場で乱れた身体を、少しだけ整える。
イベントで飲む一杯に必要なのは、派手さよりも「体温の調律」。
50のブースには、その機能が最初から組み込まれている。

第三章|メニューの気配:エスプレッソが中心に据わる

メニューの組み方は、店の考え方を隠せない。
50はESPRESSOが芯に置かれている。
つまり、抽出の中心を“濃度”に置いている。
ドリップの香りではなく、圧で取る輪郭。
会場の風に香りが攫われても、味の芯は残る――そういう設計思想が透ける。

さらにARRANGED COFFEE。
これは遊びではなく、会場の状況への回答だ。
寒さ、乾き、歩き疲れ。
「甘いものが欲しい」「酸が立つと胃が揺れる」「今日は優しい一杯がいい」
そういう身体の波を想定して、選択肢が置かれている。

そして瓶の炭酸。
コーヒーを続けて飲むと、舌が同じ場所に居座る。
炭酸は、その滞在を崩してくれる。
舌の上の座標をリセットし、次の一杯の輪郭を取り戻す。
イベントで“飲み過ぎない”ための、静かなブレーキでもある。

つまり、ここはただの提供ブースではない。
会場のコンディションに合わせて、呼吸と味覚を整える装置。
その仕組みが、メニューの並び順にまで染み込んでいる。

第四章|会場で飲んだ一杯:エスプレッソのカフェラテ

味の記録
ミルクとコーヒーが喧嘩しない。
角が立たず、舌の上で丸くまとまる。

ただ、コーヒーの輪郭が優しすぎる
その分、ミルクの甘みと厚みが勝つ。
ラテとしての“飲みやすさ”は高い。けれど、コーヒーを探すほどに、白が前へ出る。

綺麗な調和はある。だが主導権はミルク側。

第五章|持ち帰りの主役:ドリップパックは“家で完成する”

ここからが、この店の濃いところ。
飲んで終わらない。家の机まで香りの線を引く

選んだのは、Dip Style Coffee(浸す式)の3種。
抽出の技術より、“時間の置き方”が味になるタイプ。

オリジナルブレンド
甘み・苦味・酸味のバランスが良い、軸のブレンド。
中深煎りの豆を組み合わせ、紅茶のような爽やかさ/フローラル/後引く甘さへ寄せる設計。
迷った日に飲むと、気持ちが整う。

七ツ梅ブレンド
店の根を、そのまま名にしたブレンド。
クラシカルな味わいと、後味の甘さ
古い蔵の空気を、焦げや重さではなく“甘さと明るさ”で表現する思想が見える。
深谷へ戻るための、味の合言葉。

渋沢栄一ブレンド
時代の飲み方へ寄せた設計。
ミルク・砂糖が合う方向に振ってある。
足して完成する”という発想が、イベントの熱と相性がいい。

所作メモ|Dip Style Coffee(浸す式)の甘さを出す

このタイプは、注ぎ方より時間が味を決める。
抽出する”というより、“浸して待つ”。

・カップにバッグを入れる
熱湯を数回に分けて注ぐ(目安200ml前後の設計が多い)
・カップの中で上下に動かし、液の循環を作る
3分以上置く(短いと薄い、長いと甘さが出やすい)
・引き上げ前に、最後のひと回し(これで余韻が伸びる)

「浸す時間」と「最後のひと回し」。この二つが香りの輪郭を作る。

家での再現TIP|“ミルクに勝つ”ラテへ寄せるなら

会場で感じた「ミルク優勢」を、家では逆にできる。
コーヒー側の“輪郭”を意識して組み立てる。

・可能なら ミルク量を減らす(同じコーヒーでも主導権が変わる)
・砂糖を入れるなら、渋沢栄一ブレンドに寄せる(設計に沿う)
・逆に砂糖なしで輪郭を出したい日は、七ツ梅を濃いめに浸す
オリジナルは、温度が少し落ちた頃に甘さが見えやすい(飲み急がない)

ペアリング|甘さは添える、香りは残す

ブレンド別に、ちゃんと“相手”を変える。
同じ焼菓子を当てない。香りの線を守る。

オリジナルブレンド:花と紅茶の軽さを邪魔しない
・バター控えめのサブレ
・レモンのマドレーヌ(酸の立ち方が似る)
・白あん(甘さが静かで、香りを潰さない)

七ツ梅ブレンド:クラシカルに寄り添う、焼きの香ばしさ
・フィナンシェ(焦がしバターの影が合う)
・カヌレ(外側の苦味と中の甘さが呼応)
・あんバター(“古さ”を甘さで肯定する組み合わせ)

渋沢栄一ブレンド:ミルクと砂糖で完成する前提
・ミルクチョコ/キャラメル
・プリン(卵の甘さと相性が良い)
・黒糖くるみ(甘さの層を作って楽しい)

喫茶叙景文|机の上に置かれた、会場のつづき

黒い看板は、ただの目印ではない。
数字の「50」は、今日の賑わいから少しだけ距離を取らせる。
イベントの会話、笑い声、カップの擦れる音。どれも軽い。
軽いからこそ、すぐに流れて消える。

それでも、舌に残るものがある。
ミルクが勝った、と言えばそれまでだ。
けれど“喧嘩しない”という静けさは、偶然ではない。
強さで殴らない。香りを誇張しない。
ただ、混ざったときに荒れないように、最初から形が整えられている。

蔵の跡地に焙煎所が入る、というのは不思議なことだ。
古い壁は、香りをよく覚える。
酒の匂いが抜けた場所に、豆の熱が入り、苦味は角を落とし、甘さが最後に残る。
“クラシカル”が、焦げた苦味の記号ではなく、時間の質感として戻ってくる。

家へ帰ると、袋の中に別の時間が入っている。
浸すだけのドリップパックは、技術を要求しない。
代わりに、待つことを要求する。湯を注いで、沈めて、静かに回して、引き上げる。
その短い数分が、今日の賑わいの続きを、机の上に置く。

七ツ梅の名は、味の中で息をする。渋沢の名は、
ミルクと砂糖で古い時代を連れてくる。
オリジナルは、何も主張しない顔で、基準点を作る。

夜。カップの縁に唇を当てたとき、会場の風はもういない。
それでも、舌の奥に、黒い看板の余白だけが残る。
街が息を揃えるあいだに、香りが先に帰宅している。
そして明日、また別の場所へ歩くために、今日の熱を静かにほどいていく。

店舗概要

1 住所:

埼玉県深谷市(七ツ梅酒造跡地内)

2 アクセス:

深谷駅周辺(配布物に徒歩圏の記載あり)

3備考:

自家焙煎/ドリップパックはDip Style(浸す式)が主役/最新は公式発信で要確認

5公式Instagram:
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