春の光が、芝生の上に薄く広がっていた。イベント会場の空気は明るく、
歩く人の足取りもどこか軽い。焼き菓子の甘い匂い、紙カップを持つ手、
遠くから聞こえる会話。その中に、少しだけ異なる温度を持つブースがあった。
早稲田大学珈琲研究会。
名前を聞くだけで、少し背筋が伸びる。ただコーヒーを淹れて売るだけではなく、豆を選び、
味を比べ、香りを言葉にしようとする場所。「研究会」という響きには、
どこか実験室のような静けさがある。けれど、目の前にあったのは難しい理論ではなく、
三つの小さな紙カップだった。
木のトレーに並んだ三杯。
それぞれの後ろには、色の違うカードが添えられている。緑、橙、深い赤紫。そこには産地と精製、品種の名前が書かれていた。一杯を飲むのではなく、違いを飲む。このブースの面白さは、そこにあった。
今回の記事では、会場で飲んだテイスティングセットと、
持ち帰りで購入したドリップバッグを分けて記録しておく。
イベントで口にした華やかな三杯と、家へ持ち帰るための苦味。
同じブースの中に、二つの時間が用意されていた。
第一章|早稲田大学珈琲研究会という存在:学生サークルの中にある、本気の珈琲
早稲田大学珈琲研究会は、名前の通り、早稲田大学の学生による珈琲の研究会。
大学のサークル出店と聞くと、もう少し気軽な雰囲気を想像するかもしれない。
けれど、今回のブースに並んでいたメニューを見ると、その印象はすぐに変わる。
メニューには、
Costa Rica CoE#4
Ethiopia Gesha village
Colombia Geisha
といった名前が並んでいた。
さらに、それぞれに
Process
Variety
が記載されている。
つまり、単に「飲みやすいコーヒーです」「苦めです」「酸味があります」と案内するのではなく、
どこの豆で、どのような精製で、どんな品種なのかまで見せている。
この時点で、普通のイベント出店とは少し違う。
コーヒーを趣味として楽しむ人にとっては、こうした情報は味を深く見るための手がかりになる。
一方で、まだ詳しくない人にとっても、三杯を並べて飲めることで、難しい言葉が少しずつ体験に変わっていく。
知識を先に置くのではなく、体験の横にそっと添えている。
早稲田大学珈琲研究会のブースには、そんな見せ方のうまさがあった。
第二章|飲んだもの:KOHIKEN Tasting Set – 3origins
今回、会場で飲んだのは、KOHIKEN Tasting Set – 3origins。
三種類のコーヒーを少量ずつ飲み比べるテイスティングセットだ。
内容は、次の三つ。
Costa Rica CoE#4
Process:Experimental
Variety:SL28
Ethiopia Gesha village
Process:Carbonic Maceration
Variety:Heirloom
Colombia Geisha
Process:Bioreactor
Variety:Geisha
小さなカップが三つ並ぶだけで、見た目にもかなり楽しい。
一杯ずつたっぷり飲むコーヒーとは違い、香りを探し、味の差を見つけ、余韻を比べるための量。
カップの小ささが、むしろ集中力を生む。
大きな一杯なら、飲みながら少し気を抜く。けれど、小さな三杯は違う。
それぞれの香りを逃さないように、自然と意識がカップへ向かう。
これはイベントで飲むコーヒーというより、小さな公開実験だった。
豆の印象:|Ethiopia Gesha village:ぶどうの影を持つ、華やかな甘さ
最初に印象に残ったのは、Ethiopia Gesha village。
Process:Carbonic Maceration
Variety:Heirloom
とあり、説明には
ワインのような華やかさとレーズンのような甘さ
と記されていた。
実際に飲むと、たしかにぶどうの風味がある。
けれど、それは単純な甘いぶどうではない。
ぶどうジュースのように一直線に甘いのではなく、
ワインやレーズンに近い、少し影のある香り。
口に含んだ瞬間は華やかで、奥に行くほど落ち着いた渋さが出てくる。
その渋さは、飲みづらさではない。
味の奥行きをつくるための渋さ。
甘さだけで終わらせず、余韻に少し陰影を残す。
この一杯は、チョコレートと合わせると自然だと思った。
特に、甘さの強いチョコレートよりも、少しビター寄りのもの。
レーズン感、ワイン感、そしてカカオの苦味が重なると、香りが静かに伸びていきそうだった。
Ethiopia Gesha village は、華やかさの中に少し大人びた影を持つ一杯だった。
第四章|Colombia Geisha:メロンの香りが立ち上がる、ジューシーな一杯
三種類の中で、香りの立ち上がりがいちばん強く感じられたのが、Colombia Geisha。
Process:Bioreactor
Variety:Geisha
とあり、説明には
メロンやラムネのようなフレーバー
と書かれていた。
これは、かなりわかりやすかった。
カップを近づけた時点で、メロンのような甘い香りがふっと立つ。
飲む前から、香りが先にこちらへ来る。
口に含むと、その印象はさらに強くなる。
味わいも香りも、メロンに寄っている。
ただし、重たく熟した果肉というより、もう少し明るい。
ラムネのような軽さもあり、後味には清涼感が残る。
イメージとしては、メロンソーダに近い。
もちろん炭酸があるわけではない。
けれど、香りの明るさと余韻の軽さが、そう思わせる。
この一杯は、かなり読者にも伝えやすい。
「メロンのような香り」と書くだけでなく、
メロンソーダのような明るい余韻と表現すると、味の方向が浮かびやすい。
ペアリングで考えるなら、バニラアイス。
バニラの丸い甘さに、Colombia Geisha のメロン感が重なる。
冷たさと香りの明るさが合わさると、デザートとしてかなり綺麗にまとまりそうだった。
Colombia Geisha は、三杯の中でもっとも香りが前へ出る、華やかでジューシーな一杯だった。
第五章|Costa Rica CoE#4:爽やかさで全体を整える一杯
Process:Experimental
Variety:SL28
とあり、説明には
定番コスタリカと一味違う個性的なフルーティーさと爽やかさ
と書かれていた。
Ethiopia Gesha village がワインやレーズンの影を持ち、
Colombia Geisha がメロンの香りで強く立ち上がるなら、
Costa Rica CoE#4 は、その間で全体を整えるような存在に感じた。
三杯を並べて飲むと、それぞれの役割が見えてくる。
香りが前に出るもの。
余韻に影を残すもの。
そして、爽やかに輪郭を整えるもの。
Costa Rica CoE#4 は、派手な香りだけで押し切る一杯ではない。
フルーティーさの中に、すっと抜ける軽さがある。
イベント会場で飲むには、この爽やかさがちょうどいい。
一杯だけで飲むと見逃してしまう味も、三杯で並ぶと見えてくる。
「これは香りが強い」
「これは余韻が甘い」
「これは後味が軽い」
そうやって、味の違いが少しずつ立ち上がる。
Costa Rica CoE#4 は、テイスティングセット全体の輪郭を支える一杯だった。
持ち帰り:KOHIKEN BITTER BLEND ドリップバッグ
会場で飲んだものとは別に、持ち帰りとして購入したのが、
KOHIKEN BITTER BLEND のドリップバッグ。
ここは、飲んだテイスティングセットとは分けて書いておきたい。
会場で飲んだのは、華やかな三種類の飲み比べ。
一方で、購入したのはBITTER BLEND。
つまり、体験としてはかなり性格が違う。
メニューには、
Guatemalan dark roast × Colombian pink bourbon
と書かれていた。
案内には、イベント限定のドリップバッグとして紹介されていた。
華やかなゲイシャや実験的な精製のコーヒーを会場で飲み、
帰りには、日常に戻るための苦味を一袋持ち帰る。
この流れがとても良い。
テイスティングセットは、イベントの場でこそ楽しい。
三杯を並べ、違いを見つけ、香りを記憶する。
一方でドリップバッグは、家に帰ってから開くもの。
イベントの熱が少し落ち着いたあと、台所や机の上で、もう一度そのブースを思い出すためのもの。
飲んだものは、華やかな三杯。
買ったものは、家へ持ち帰る苦味の一袋。
この違いが、今回の記事の大事な軸になる。
ペアリング|苦味に寄り添う、焼き菓子の香り
KOHIKEN BITTER BLEND に合わせるなら、甘さと香りに厚みのあるものが良さそうだった。
候補として浮かぶのは、
バナナブレッド
スパイス系の焼き菓子
ナッツ系のお菓子
カルダモン
シナモン。
グアテマラ深煎りの苦味に、コロンビア・ピンクブルボンの甘さが重なるなら、
ただ甘いだけのお菓子よりも、少し香りのある焼き菓子が合う。
バナナブレッドなら、果実の甘さと油分がある。
ナッツ系なら、香ばしさが苦味に寄り添う。
シナモンやカルダモンが入れば、ブレンドの奥にある甘さが引き出される。
テイスティングセットで飲んだ三杯が、香りの違いを楽しむものだったとすれば、
このドリップバッグは、家でお菓子と合わせながらゆっくり飲みたい一杯だ。
イベントの記憶は、紙袋の中で少しだけ形を変える。
華やかな三杯のあとに、静かな苦味が残る。
それは、会場から家へ続く余韻のようだった。
このブースで印象に残ったこと
早稲田大学珈琲研究会の記事は、普通のロースター紹介とは少し違う。
お店としての店舗紹介ではなく、
学生たちがコーヒーをどう捉え、どう伝えようとしているかを見る記事になる。
だからこそ、単に「美味しかった」で終わらせるより、
飲み比べの構成
豆の情報
味の印象
持ち帰りのドリップバッグ
を丁寧に分けると、記事の価値が上がる。
特に今回のように、メニューに精製や品種まで書かれている場合、そこを拾わないのはもったいない。
読者にとっても、
「学生サークルなのにここまで本格的なのか」
という驚きが生まれる。
このブースの魅力は、若さだけではない。
軽やかさの中に、ちゃんと研究の目があること。
イベントの明るさの中に、珈琲を深く見ようとする姿勢があること。
そこを記事の芯に置くと、かなり良い一篇になる。
喫茶叙景文 ~春の白い卓に、豆の余韻が残る~
芝生の上に、春の光が落ちていた。紙カップの縁に、黒い液面が静かに揺れる。
大きなカップではない。ほんの少しずつ注がれた三杯のコーヒー。
けれど、その小ささが、かえって香りを際立たせていた。
緑のカードには、コロンビア。橙のカードには、コスタリカ。深い赤紫には、エチオピア。
色が違うように、香りも違う。香りが違うように、記憶の残り方も違う。
ぶどうの影を持つ一杯がある。メロンの明るさをまとった一杯がある。
爽やかに輪郭を整える一杯がある。
それぞれが小さな紙カップの中で、自分の産地と精製を静かに語っていた。
学生たちの手元にあるのは、ただの販売用のコーヒーではない。知りたいという気持ち。
比べたいという目。伝えたいという少しの緊張。そのすべてが、トレーの上に並んでいた。
会場で飲んだ三杯は、華やかだった。
けれど、帰りに手元に残ったのは、BITTER BLEND のドリップバッグ。
華やかな香りを飲み終えたあと、家へ持ち帰るための苦味。
その対比が、妙に美しかった。
イベントのコーヒーは、その場で終わるようでいて、終わらない。
紙袋の中で、余韻は少し眠る。家に帰り、湯を沸かし、袋を開ける。
その時、芝生の光も、木のトレーも、三つの小さなカップも、もう一度静かに立ち上がる。
春の一日は、飲み比べの中に残る。研究という言葉は、難しい顔をしていなかった。
それは、紙カップを持つ手の中で、やわらかく湯気を立てていた
店舗概要
- 1 住所:
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東京都新宿区戸山1-24-1
- 2 アクセス:
-
東京メトロ東西線「早稲田駅」から徒歩約3分。
JR山手線「高田馬場駅」から徒歩約20分(またはバスで「馬場下町」下車)
- 3 備考:
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飲むためのチャンス店舗がないため、一般の方が彼らのコーヒーを飲むには以下のタイミングを狙う必要があります。
早稲田祭(11月上旬): 最大のチャンスです。
KOTO COFFEE & CRAFT MARKET: 江東区などで開催されるコーヒーイベントに、これまで紹介した「Rauhaa Koffee」や「COFFEENOKI」と共に出店することがよくあります。
- 4公式Instagram:
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