イベント会場には、いくつもの香りが重なっていた。
浅煎りの明るさ、深煎りの甘さ、焼き菓子のバター、紙カップのぬくもり。
人の流れは絶えず、ブースの前では短い会話がいくつも生まれては、湯気のようにほどけていく。
その中で、50 COFFEE & ROASTERYの前には、静かな選択の時間があった。強く呼び込むというより、豆の表情を見せながら、飲み手に少し考える余白を渡してくれる。
派手な言葉で押すのではなく、香りの方向、合わせたい菓子、家で飲む場面まで含めて、
コーヒーを選ばせてくれる。この日、印象に残ったのは二つの豆。コロンビア アロマナティーボ。
片方は果実のほうへ伸び、もう片方は香りの奥に花を残す。
どちらも、ただ「おいしい」で終わらせるには惜しい豆だった。
イベントの一杯は、その場で飲み切るものではない。
帰宅後の机の上で、もう一度立ち上がる香りまで含めて、記憶になる。
第一章|50 COFFEE & ROASTERYという店:深谷の蔵跡にある、静かな焙煎の場所
50 COFFEE & ROASTERYは、埼玉県深谷市に店を構えるロースタリーだ。
場所は、七ツ梅酒造跡地内。
古い酒蔵の気配が残る一角にあり、ただコーヒーを飲むだけではなく、建物の記憶や街の時間も一緒に味わうような店だ。
ロースタリーという言葉には、少し職人的な響きがある。
焙煎機、豆の棚、抽出、香りの確認。
しかし、50 COFFEE & ROASTERYの印象は、固さよりもやわらかさに近い。
豆を難しく見せるのではなく、飲む人の生活に近づけてくれる。
「どんな味が好きか」
「どんなお菓子に合わせるか」
「家ではどんな時間に飲むか」
そうした問いの先に、コーヒーが置かれている。
イベント会場では、実店舗の空気すべてを持ち込むことはできない。
けれど、豆の説明や会話の端々から、店の姿勢は十分に伝わる。
香味を語ることと、飲む人の時間を想像すること。
この二つが同じ線上にある店だと感じた。
第二章|会場で出会った豆:コロンビア アロマナティーボの果実感
まず印象に残ったのは、コロンビア アロマナティーボ。
名前の響きからして、香りに重心がある。
実際、メモに残した印象は、フルーツ系、チェリー系。
チェリーといっても、甘く濃いシロップのような方向ではない。
もっと軽く、果皮の赤さを思わせる明るい香り。
口に含んだ瞬間、酸が鋭く刺さるのではなく、果実の輪郭として立ち上がる。
酸味が苦手な人にとって、浅煎りや果実系のコーヒーは少し構えてしまう存在でもある。
けれど、この豆の魅力は、酸味だけが前へ出るところではない。
甘さの中に果実があり、果実の中に透明感がある。
チェリー系の香りは、冷めていくほど見え方が変わる。
熱いうちはやわらかい果実感。
少し温度が落ちると、赤い果実の酸と甘さがほどけてくる。
最後に残るのは、軽い余韻と、もう一口確かめたくなる引っかかり。
この「引っかかり」が、良いコーヒーの面白さだ。
強い個性を叩きつけるのではなく、飲み手の記憶に小さな爪を立てる。
飲み終わったあとに、あの香りは何だったのかと考えたくなる。
コロンビア アロマナティーボは、そういう豆だった。

第三章|持ち帰った二つの袋:七ツ梅ブレンドと渋沢栄一ブレンド
会場で飲んだ一杯だけでは、その店の輪郭は掴みきれない。
コーヒーは、その場の熱気で飲むものでもあり、
家に持ち帰ってから、もう一度静かに向き合うものでもある。
今回、50 COFFEE & ROASTERYから持ち帰ったのは、
「七ツ梅ブレンド」と「渋沢栄一ブレンド」のドリップパック。
どちらも10g入りのレギュラーコーヒーで、産地にはホンジュラス、エチオピアの表記が見える。
抽出器具を用意しなくても、カップと湯があれば飲める形でありながら、
名前と包装には、きちんと土地の気配が宿っている。
七ツ梅ブレンドの金色の袋には、酒蔵の街を思わせるような意匠が並ぶ。
白い梅、赤い煙突のような形、紫や黄色のやわらかな図形。
派手ではないが、どこか祝いの空気がある。深谷の街、七ツ梅酒造跡地、
そして50 COFFEE & ROASTERYという場所を、ひとつの小さな袋に収めたような佇まいだ。
一方、渋沢栄一ブレンドは、銀色の袋に黒い人物画が描かれている。
湯気の立つカップを手に、静かに座る人物。
その余白の多いデザインには、華やかさよりも落ち着きがある。
渋沢栄一という名前を冠しながら、重々しさで押すのではなく、
日常の一杯として自然に置かれているところがよい。
この二つは、単なる土産ではない。
店のある土地を、家のカップまで運ぶための小さな媒体だ。
イベントで出会ったコーヒーは、その場の印象が強く残る。
人の声、湯の音、ブースの空気、手渡された瞬間の温度。
けれど、ドリップパックはそれとは別の時間を連れてくる。
翌朝でも、夜でも、少し疲れた日の机の上でも開けられる。
袋を破る音がして、粉の香りが立ち、会場で見た景色が少し遅れて戻ってくる。
飲んで終わるのではなく、持ち帰ってからもう一度、その店のことを考えられる。
ドリップパックのよさは、そこにある。

所作メモ:“見えない距離”まで届く珈琲


家での再現TIP|イベント後の一袋を、喫茶の時間に変える
ペアリング|香りを濁らせない、静かな菓子
買うならこの2本|深谷を持ち帰るドリップパック


喫茶叙景文 ~甘さの奥に、湯気が立つ~
店舗概要
- 1 住所:
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埼玉県深谷市深谷町9-12 「七ツ梅酒造跡地」内
- 2 アクセス:
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―JR高崎線「深谷駅」(北口)から徒歩約5〜10分
- 3 営業時間:
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― 営業時間: 平日 11:00〜16:00 / 土日祝 11:00〜17:00
定休日: 火曜日(月曜・火曜とする情報や、週末のみ営業の場合もあるため 公式Instagram を要確認) - 4 備考:
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日本でも導入数が限られるアメリカ製の最新鋭焙煎機「スマートロースター」を使用。
生豆に直接火を当てない完全熱風式焙煎により、嫌な苦味が出にくく、
豆本来の甘みやフルーティーな香りを引き出している。
お店では、コーヒーオイルまで味わえるフレンチプレスでの抽出も提案。
さらに、本場イタリア仕込みのエスプレッソやラテも楽しめる。
古い酒蔵や古民家の趣を活かしたレトロな空間も魅力。
名物の素焚糖プリンは、どこか懐かしい固め仕立てで、ビターなコーヒーとの相性もよい。 - 5公式Instagram:










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