MENU

さいたまの空に、豆と菓子の香りが重なる|(さいたま COFFEE FESTIVAL) まとめ

さいたま新都心の空は、街の輪郭を少し薄くしていた。
高いビルのあいだを風が抜け、線路の上を電車が走り、
けやきひろばには人の流れがゆっくり集まっていく。

そこに立っていたのが、SAITAMAコーヒーマルシェの看板だった。
会場は、さいたま新都心のけやきひろば。開催日は2026年5月23日・24日。
時間は10:00〜16:00。入場無料の小さなコーヒーの市は、駅前の日常の中に、
いつもとは違う香りの層をつくっていた。

コーヒーイベントには、それぞれ性格がある。大きなフェスのような熱量を持つものもあれば、街に溶け込むように開かれるものもある。今回のSAITAMAコーヒーマルシェは、後者に近かった。
行列の圧よりも、会話の距離。派手な演出よりも、手渡される一杯。豆の名前よりも、その一杯がどんな時間に合うか。

そういう小さな問いが、各ブースの前でいくつも生まれていた。

今回歩いたのは、コーヒー、焼き菓子、ペアリング、
持ち帰りのドリップパックまでを含めた巡礼だった。
EPICE CAFE、菓子工房 osanji、焼き菓子 cafuné、Or blanc、EVERYDAY Cafe、
EL ORIGEN、菓匠 幹栄 × CafeLatte57℃、そして50 COFFEE & ROASTERY。

それぞれの店が、それぞれの香りを持っていた。ある店はミルクに寄り添い、ある店はレモンの余韻を残し、ある店は南米の風景をカップに落とし込み、ある店は深谷という土地の記憶をドリップパックに閉じ込めていた。

イベントの価値は、何杯飲んだかではない。どの香りが、帰り道まで手に残ったかだ。

第一章|会場の空気:けやきひろばに生まれた、街の喫茶時間

けやきひろばは、イベント会場でありながら、街の通路でもある。
買い物へ向かう人、家族連れ、偶然通りがかった人、目的を持って来たコーヒー好き。
そうした人の流れが混ざり、会場には独特の開放感があった。

屋外イベントの良さは、香りが閉じ込められないところにある。
一杯の湯気は空にほどけ、焼き菓子の甘い匂いは風に乗り、
ブースの前の会話も少しずつ街の音に溶けていく。

今回のマルシェは、コーヒーだけで完結しないイベントだった。
ロースターの一杯があり、ドリップパックがあり、焼き菓子があり、
和菓子があり、スイーツとの提案がある。カップを片手に飲むだけでなく、
家に帰ってから開ける袋まで含めて楽しむ構成になっていた。

これは、さいたまのコーヒーイベントらしい強さでもある。
都心の大規模フェスのように、情報量で圧倒するのではない。
一つひとつの店が、生活に近い距離で立っている。

「今日飲む一杯」だけではなく、
「明日の朝に淹れる一袋」
「夜に食べる焼き菓子」
「記事を書くときに思い出す香り」
そういう余韻まで持ち帰れる。

会場全体にあったのは、街の中に一日だけ立ち上がる喫茶の時間だった。

第二章|EPICE CAFE:ミルクの中に、ホンジュラスの甘さが沈む

最初に印象に残ったのは、EPICE CAFEの一杯だった。
今回の記憶の中で、EPICE CAFEは「やさしい入口」のような存在になっている。

ホンジュラスのコーヒーと、オーツラテ。
この組み合わせには、強い個性をぶつけるのではなく、甘さと丸みを重ねていくような設計があった。

オーツミルクの魅力は、乳製品とは違う穀物の甘さにある。
軽い香ばしさ、やさしいとろみ、後味に残る丸さ。
そこにコーヒーの酸や苦味が入ると、飲みやすさの中に輪郭が生まれる。

EPICE CAFEの一杯は、イベントの歩き始めにちょうどよかった。
空腹に強く当たらず、甘さで疲れすぎず、会場のリズムに身体を合わせてくれる。

コーヒーイベントの一杯目は、味だけでなく、その日の歩幅を決める。

EPICE CAFEは、その歩幅を少しやわらかくしてくれた店だった。

第三章|菓子工房 osanji:レモンとバニラ、菓子がコーヒーに負けない時間

菓子工房 osanjiでは、焼き菓子が主役だった。
特に印象に残ったのは、レモンケーキとバニラパウンドケーキ

レモンケーキは、最初から最後までレモンが残る。
よくある「香りだけ」「表面だけ」のレモンではなく、口の中で甘さと酸味がほどけたあとも、
柑橘の気配が消えない。コーヒーと合わせても、味が沈まない。
むしろ、コーヒーの余韻の中でレモンがもう一度立ち上がる。

バニラパウンドケーキは、部位によって表情が変わる菓子だった。
上部は甘さが高く、中心は食感と味のバランスが整い、下部には生地のしっかりした食感がある。
ひと切れの中に、小さな層がある。

スタッフの方から、コーヒーと合わせるならバニラパウンドケーキと教えていただいた。
浅煎りでも深煎りでも味わいが変わり、その違いが面白いという話だった。

これは、ペアリングの楽しさそのものだ。
菓子がコーヒーに合わせられるだけではなく、コーヒーによって菓子の見え方が変わる。
浅煎りなら香りが軽く開き、深煎りなら甘さとボディが寄り添う。

osanjiの焼き菓子は、ただ甘いだけではない。
コーヒーと並んだときに、自分の輪郭を保てる菓子だった。

第四章|焼き菓子 cafuné:深煎りに浸したくなる、ビスコッティの余韻

焼き菓子 cafunéでは、ビスコッティが記憶に残った。
ビスコッティは、コーヒーとの関係が深い菓子だ。
イタリアではコーヒーや飲みものに浸して食べる文化があり、硬さそのものが楽しみの一部になる。
今回のビスコッティは、本場のものよりはやわらかめに作られていると聞いたが、
それでもしっかりとした硬さがあった。

噛むたびに、ナッツや生地の香ばしさが出てくる。
軽い焼き菓子というより、コーヒーを受け止めるための骨格を持った菓子だった。

合わせるなら、深煎り
自分の感覚では、ブラジルやインドネシアのように、後半にボディを残すコーヒーが合う。
苦味だけではなく、ナッツ感、チョコレート感、少し重心の低い甘さ。
そうしたコーヒーが、ビスコッティの硬さと香ばしさに寄り添う。

ビスコッティは、急いで食べる菓子ではない。少しずつ噛み、コーヒーを挟み、また噛む。
その反復の中で、味がゆっくりほどけていく。
硬い菓子には、時間がある。コーヒーは、その時間をほどくためにある。
cafunéのビスコッティは、まさにそういう一品だった。

第五章|Or blanc:白の余白に、菓子の静けさが置かれる

Or blancは、名前の印象からして静かだった。白、余白、やわらかい光。
そうした言葉が似合うブースだった。

ここで印象に残るのは、菓子そのものの繊細さだけではなく、見せ方の空気だ。
イベント会場では、どうしても商品がにぎやかに並ぶ。色、札、値段、包装、人の手。
その中でOr blancは、少し落ち着いた場所をつくっていた。

焼き菓子は、見た目の派手さよりも、手に取ったときの気配が大事なことがある。
軽さ、包装の手触り、焼き色、置かれ方。味わう前に、その店の姿勢が見えてくる。
Or blancの菓子には、静かな甘さを選ぶ楽しさがあった
コーヒーイベントの中で、こういう店があると、全体の流れに余白が生まれる。

強い一杯のあと、深煎りのあと、甘さの強い菓子のあと。
少し呼吸を整えるように、白い菓子の前に立つ。その時間もまた、イベントの一部だった。

第六章|EVERYDAY Cafe:毎日楽しいコーヒーという、まっすぐな言葉

EVERYDAY Cafeのコンセプトは、毎日楽しいコーヒー。この言葉は、簡単なようで強い。

スペシャルティコーヒーは、ときに難しく見える。産地、精製、標高、焙煎度、抽出レシピ。
知れば知るほど面白い一方で、飲む前に構えてしまうこともある。

EVERYDAY Cafeの良さは、その緊張を少しほぐしてくれるところにあった。毎日飲む。毎日楽しむ。
難しさよりも、生活に入ってくる軽さがある。

深煎りは、しっかり苦いコーヒーとして記憶に残った。
甘いあんこと合わせたくなるような、落ち着いた苦味。和菓子や甘さの強い菓子に、輪郭を与える一杯だ。

浅煎りは、比較的浅めで、果物系のスイーツと相性がよさそうだった。
果実の酸や香りを、菓子の甘さと並べて楽しめる。
強く主張しすぎず、日常の中で飲める浅煎りという印象があった。

EVERYDAY Cafeのコーヒーは、名前の通り、毎日に置ける。特別な日にだけ飲むのではなく、
朝、午後、少し疲れた日、甘いものがある日。そういう日常の隙間に入ってくるコーヒーだった。

第七章|EL ORIGEN:南米の香りと、焼き菓子の小さな幸せ

EL ORIGENのブースでは、南米のスペシャルティコーヒーと焼き菓子が並んでいた。コーヒーだけではなく、Le Petit Bonheurの焼き菓子とのペアリング提案が印象に残る。

EL ORIGENは、南米産のコーヒーを軸にしたブランド。ペルー、コロンビアなど、
産地の個性をパッケージにも味にも反映している。
会場ではドリップバッグや豆が並び、色彩のある袋が目を引いた。
特におすすめとして教えていただいた組み合わせは、チーズケーキ × ペルー、
コロンビアフルーツケーキ × コロンビア

コーヒーと菓子をただ隣に置くのではなく、産地と味わいの方向を合わせて考える提案だった。

そして、焼き菓子の店主さんからおすすめされたのがカヌレ。
タピオカにも使われるキャサバ粉を使用し、一般的なカヌレとは違うもちもち感を重視しているとのこと。
オーブンで1分ほど温めるのがおすすめで、作るのにかなり苦労したという話も印象に残った。

このカヌレは、単なる添え物ではない。南米のコーヒーに、食感で応える菓子だった。
外側の焼き色、内側のもちもち感、温めるという一手間。
そこにコーヒーを合わせることで、家で完成する時間が生まれる。

EL ORIGENの魅力は、産地の物語をカップに入れ、焼き菓子によってその余韻を広げるところにある。

第八章|菓匠 幹栄 × CafeLatte57℃:和菓子、洋菓子、ラテが同じ場所で出会う

菓匠 幹栄 × CafeLatte57℃は、和菓子・洋菓子・コーヒーが同じ場所にある店だ。
この組み合わせは、今回のマルシェの中でもかなり印象的だった。

和菓子の静けさ。洋菓子の焼き色。カフェラテの温度。
それぞれが別の文化を持ちながら、一つの店の中で自然に並んでいる。

購入したのは、フロランタンとドリップパック。
フロランタンは、ぎっしりとしたアーモンドとキャラメル生地が香ばしく、甘さの密度がある焼き菓子だった。噛むとアーモンドがほどけ、キャラメルの甘さと香ばしさが口に残る。
コーヒーと合わせることで、甘さが重くなりすぎず、余韻が整う。

ドリップパックは、HATSU BLEND。
ブラジルとエチオピアを使ったブレンドで、裏面には淹れ方が細かく記されていた。
湯温、湯量、時間まで示されていることで、家で淹れるときの安心感がある。

菓子とコーヒーを一緒に持ち帰る。この流れが、菓匠 幹栄 × CafeLatte57℃らしい。
会場で買ったものが、その場で完結せず、家の机で再び喫茶の時間になる。

店名にある57℃*は、ミルクの甘みが引き立つ温度に由来する。
その考え方は、コーヒー単体だけではなく、菓子との組み合わせにも通じているように感じた。
甘さをどう届けるか。温度をどう整えるか。菓子と一杯をどう並べるか。
その視点が、ブース全体にあった。

第九章|50 COFFEE & ROASTERY:深谷の記憶を、ドリップパックに閉じ込める

最後に歩いた記憶として強く残るのが、50 COFFEE & ROASTERYだ。

この日いただいたのは、店主さんから本日のおすすめとして紹介された
コロンビア・ブエノスアイレス農園・スーダンルメ
メニューには、ブルーベリー果汁のようなジューシーさとあった。

実際に飲むと、その表現がよくわかる。
コーヒーを飲んでいるのに、ブルーベリーとペアリングしているような感覚があった。
コーヒーの中に果実がある、というより、
一杯の中でコーヒーとブルーベリーの組み合わせがすでに完成しているようだった。

甘い菓子を横に置かなくても、この一杯だけで味の体験が満ちる。
ハーフカップでありながら、印象は強く残った。

持ち帰ったのは、七ツ梅ブレンドと渋沢栄一ブレンドのドリップパック。
七ツ梅ブレンドは金色の袋に、梅や酒蔵の街を思わせる図案が描かれている。
原材料はホンジュラス、エチオピア。
渋沢栄一ブレンドは銀色の袋に、カップを持つ人物の絵が描かれている。
こちらもホンジュラスとエチオピアの表記が見える。

この二つは、味だけではなく名前に土地の記憶を持っている。

七ツ梅は場所の記憶。
渋沢栄一は人物の記憶。

50 COFFEE & ROASTERYは、深谷という街と結びついたロースタリーだ。
イベント会場で飲む一杯もよいが、ドリップパックを家で開けることで、その土地性がもう一度立ち上がる。

会場で飲んだ一杯は記憶になり、持ち帰った一袋は記憶をひらく鍵になる。

第十章|今回の巡礼で見えたもの:飲むだけではなく、持ち帰るイベント

今回のSAITAMAコーヒーマルシェで強く感じたのは、持ち帰る楽しさだった。

コーヒーイベントでは、どうしてもその場で飲んだ一杯に意識が向く。
けれど今回は、ドリップパック、焼き菓子、カヌレ、フロランタン、
ビスコッティ、パウンドケーキなど、家に帰ってから楽しむものが多かった。

イベント当日は、どうしても情報量が多い。人も多く、会話もあり、写真も撮り、メモも残す。
味の細部までその場で受け止めきれないこともある。

だからこそ、持ち帰りが大事になる。

家に帰り、袋を開ける。皿に菓子を置く。湯を沸かす。ドリップパックを開く。
その時間の中で、会場の記憶が少しずつ戻ってくる。
今回のマルシェは、飲み歩きだけでは終わらなかった。自宅で続きを味わえるイベントだった。

家での再現TIP|イベントの余韻を、机の上でほどく

今回のようなイベントで買ったものは、家で少し丁寧に扱うだけで印象が変わる。

ドリップパックは、袋の裏面に淹れ方がある場合、まずその通りに淹れるのがよい。
最初の一杯は、店が想定した味に近づける。そこから、濃くしたいなら湯量を減らす。
軽くしたいなら湯を足す。調整は二杯目からで十分だ。

焼き菓子は、冷蔵していた場合、少し常温に戻す。
バターやキャラメル、ナッツの香りは、冷たいままだと閉じやすい。
数分置くだけで、甘さの立ち方が変わる。

カヌレのように温め推奨の菓子は、軽く温める。
1分程度の一手間で、食感や香りが変わる。
イベントの菓子は、買った瞬間ではなく、食べる直前に完成するものもある。

コーヒーと合わせるときは、菓子の重さを見る。

軽い焼き菓子には、浅煎り〜中煎り。キャラメルやナッツには、中深煎り〜深煎り。
柑橘系の菓子には、明るい酸を持つコーヒー。
あんこや濃い甘さには、しっかりした苦味のあるコーヒー。

難しく考えすぎなくていい。
ただ、菓子とコーヒーのどちらを主役にするかを決めると、合わせやすくなる。

イベントの余韻は、持ち帰った袋の中に残っている。湯を注ぐことで、その日の空気がもう一度ほどける。

喫茶叙景文 ~駅前のひろばに、香りの小さな市が立つ~

さいたま新都心の空は、高い建物のあいだから静かに降りていた。

線路の上を電車が走り、駅へ向かう人の足音が広場に流れ込む。
その途中に、コーヒーの香りがあった。

テントの下で湯が注がれ、紙カップが手渡され、焼き菓子の袋がひとつずつ持ち帰られていく。
会場は大きな祝祭というより、街の呼吸の中に小さく差し込まれた喫茶の時間だった。

レモンの余韻。ビスコッティの硬さ。オーツミルクの丸み。カヌレのもちもちとした密度。
フロランタンのキャラメル。ブルーベリーのように広がるコロンビア。
深谷の名前を背負ったドリップパック。

それらは会場でばらばらに出会ったものなのに、帰り道にはひとつの束になっていた。
駅へ向かう途中、袋の中で紙が擦れる音がした。その音は小さく、けれど確かだった。
今日の記憶が、まだ終わっていないことを知らせる音だった。

イベントは、会場を出た瞬間に終わるわけではない。
家に帰り、机に袋を並べ、湯を沸かす。
そのとき初めて、昼間のざわめきが静かな輪郭を持ち始める。

カップに湯気が立つ。皿の上に焼き菓子を置く。袋を開ける。香りが戻る。

さいたま新都心の広場で出会ったものが、夜の部屋で別の表情を見せる。
明るい会場では気づかなかった余韻が、静かな机の上でようやくほどける。

コーヒーは、街を連れて帰ることがある。この日の一杯も、そうだった。

けやきひろばの風。駅前の人波。看板の淡い色。ブース越しの短い会話。
そのすべてが、ひとつのカップの奥に沈んでいる。

飲み終えたあと、少しだけ香りが残った。それは豆の香りであり、菓子の香りであり、
歩いた街の香りでもあった。

SAITAMAコーヒーマルシェは、飲み比べのイベントではなく、街の中にある小さな喫茶時間を、
家まで持ち帰るための一日
だった。

店舗概要

1 住所:

会場: さいたま新都心 けやきひろば(2階「水と緑のひろば」周辺)

2 アクセス:

―JR京浜東北線・宇都宮線・高崎線「さいたま新都心駅」西口から徒歩約2分(改札を出て左に進むと、ペデストリアンデッキで直結しています)。J
R埼京線「北与野駅」から北与野デッキ経由で徒歩約7分。

3 営業時間:

― 般的な開催時間: 10:00 〜 16:00(または17:00まで)
※屋外イベントのため、雨天決行・荒天中止となる場合があります。

4 備考:

入場料: 無料(どなたでも自由にふらっと立ち寄れます)。
購入方法: 各店舗のブースで、現金またはキャッシュレス決済(PayPayなど ※店舗による)で直接1杯ずつ購入するシステムです。

5公式Instagram:
よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

コメント

コメントする