練馬の住宅街には、派手な看板よりも先に、静かな気配があった。
道の流れは穏やかで、店の前に立つと、日常の速度が少し落ちる。大きく主張する店ではない。
けれど、中へ入る前から、ここには豆と向き合う時間があるのだとわかる。
この店には、コーヒーを飾るような派手さはない。
あるのは、仕入れ、焙煎、選別、抽出までを一つずつ積み上げる手仕事だ。
店主は、南千住の名店カフェ・バッハで焙煎を学んだ人。
そのつながりもあり、特別にカフェ・バッハと同じ仕入れ先の豆を使っているという。ただし、それは名店の名前を借りるための話ではない。仕入れた豆を自店で焼き、ハンドピックで整え、目の前で一杯にする。そこに、フェルドコーヒーの芯がある。
良いコーヒーを出したい。
その言葉は、飾り気がないからこそ強い。
カップの前に座ると、その思いが湯の細い線になって、ゆっくり落ちてくる。
第一章|フェルドコーヒーという店:カフェ・バッハで学んだ焙煎を、練馬の日常へ
フェルドコーヒーは、東京都練馬区谷原にある自家焙煎珈琲店だ。
石神井公園駅から歩いて向かえる距離にあり、谷原五丁目のバス停にも近い。
駅前の喧騒から少し離れた場所に、静かに珈琲の時間を置いている。
店の印象を決めているのは、カウンター奥に並ぶ豆の瓶と、青い焙煎機だ。
棚には、複数の豆が瓶に入って並び、それぞれの個性を待っている。カップや器も整えられ、
過度な装飾ではなく、使われるための道具としてそこにある。
その奥にある焙煎機は、店の心臓部のようだった。
青い本体に、金属の質感。焙煎機の前に立つと、コーヒーが単なる飲み物ではなく、
火と時間と選別の積み重ねであることが伝わる。
店主は、南千住の名店カフェ・バッハで5〜6年ほど焙煎を学んだという。
カフェ・バッハといえば、日本の自家焙煎文化を語るうえで避けて通れない名店の一つ。
その場で培われた焙煎やハンドピックの考え方が、フェルドコーヒーの一杯にも息づいている。
さらに、カフェ・バッハで修行していた縁もあり、特別に同じ仕入れ先の豆を使用しているという。
だが、仕入れ先が同じであることよりも大事なのは、その豆をどう扱うかだ。
フェルドコーヒーでは、豆を自店で焙煎し、ハンドピックで欠点豆をしっかり取り除く。
良い豆を選ぶだけでなく、良い状態に整えてから出す。その姿勢が味の土台になる。
お店を始めたきっかけも、まっすぐだ。
もともとはコーヒーそのものへの強い興味から始まったわけではなく、
コーヒー巡りが好きだったことが原点にあるという。知人に良い店を教えてもらい、
そこですっきりとして美味しいコーヒーに出会った。
その体験が、学ぶ側へ進む入口になった。
飲む人から、淹れる人へ。
巡る人から、焙煎する人へ。
その変化の途中に、フェルドコーヒーという店がある。
店内は、静かで明るい。
カウンターに座ると、抽出の手元が近い。ポットから落ちる湯の線、ドリッパーの中で膨らむ粉、カップの青い模様。そうしたものが目の前で一つずつ重なっていく。
この店の良さは、コーヒーを難しく語りすぎないところにもある。
豆の説明はある。焙煎の背景もある。カフェ・バッハで学んだ確かな技術もある。けれど、カップの前に座ったとき、それらは押しつけにならない。
住宅街の日常に、良いコーヒーを自然に置く。
フェルドコーヒーは、そのための店だ。

第二章|目の前で淹れられる一杯:ハンドドリップの線が味を決める
今回、印象的だったのは、目の前で行われるハンドドリップだった。
銀色のポットが持ち上がり、白いドリッパーの中へ湯が落ちる。
湯の線は細く、急がない。粉の表面が静かに濡れ、少しずつ膨らむ。
カップは青い文様の入った白磁で、ソーサーの淡い色がコーヒーの深さを受け止めていた。
ハンドドリップは、淹れ方によって味が変わる。
店主さんも、そこに面白さがあると話していた。湯量、注ぐ位置、速度、蒸らし、落とし切るタイミング。
少しの違いで、同じ豆でも印象が変わる。だからこそ、調整がしやすく、淹れる人の手が味に出る。
フェルドコーヒーでは、カフェ・バッハで習った淹れ方を大切にしている。
焙煎した豆を、ただ湯に通すのではない。焙煎で作った味の輪郭を、抽出で崩さないように整える。
カウンター越しに見ていると、所作に無駄がない。
手元は静かで、道具の位置も整っている。湯を注ぐ前から、一杯の形が決まっているように見えた。
コーヒーの味は、すっきりしている。
苦味で押すのではなく、雑味を削ぎ落とした透明感がある。これは、店主さんが大切にしているハンドピックともつながっている。欠点豆を取り除くことで、嫌な濁りが減り、飲み終わりが軽くなる。
すっきりしているのに、軽すぎない。静かな味の奥に、焙煎の芯が残る。
この一杯は、派手に香るコーヒーではない。
けれど、飲み進めるほどに、きちんと整えられた味であることがわかる。カフェ・バッハで学んだ技術が、住宅街のカウンターに移され、フェルドコーヒーの味として静かに立っている。

第三章|ブレンドの考え方:豆の役割が、一杯の中で結ばれる
フェルドコーヒーのブレンドには、明確な役割がある。
豆の構成は、実にわかりやすい。
ブラジルは、土台。
グアテマラは、チョコのような質感。
コロンビアは、酸味。
ニューギニアは、甘み。
それぞれの豆が、味の部品として働いている。
どれか一つが前に出すぎるのではなく、互いの足りないところを補い合う。
ブラジルが安定した骨格を作り、グアテマラが甘く香ばしい厚みを足す。
コロンビアが明るさを入れ、ニューギニアが後味に甘みを残す。
店主さんによると、均等に入れているとのこと。
この考え方は、カフェ・バッハのブレンドと同じ流れにあるという。
中深煎りにすることで、飲みやすさが出る。
浅煎りの華やかさで勝負するのではなく、毎日飲める落ち着きがある。
酸味は尖らず、苦味は重すぎず、甘さが奥で支える。
こうしたブレンドは、飲む人を選びにくい。
コーヒーを飲み慣れた人には、構成の丁寧さが見える。
コーヒーに詳しくない人には、ただ「飲みやすい」と感じられる。
それは、簡単なようで難しい。
クセを立てることはできる。
個性を強く見せることもできる。
けれど、誰かの日常に自然に入っていくブレンドを作るには、派手さよりもバランスが必要になる。
フェルドコーヒーのブレンドは、そのバランスを目指している。
良いコーヒーを、難しいものにしない。
技術を見せつけるのではなく、飲み終えたあとに静かに残す。
一杯の中で、豆が役割を持って結ばれている。
その構成が、フェルドコーヒーの味を支えていた。

第四章|チーズケーキとコーヒー:上と下で変わる舌触り
今回合わせたスイーツは、チーズケーキだった。
皿にのった姿は、四角く、素朴で、密度がある。フォークを入れると、上部と下部で質感が違うことがわかる。
上部は、しっとりとしたチーズの層。
なめらかで、口の中に静かに広がる。甘さは強く出すぎず、チーズの濃厚さが先にくる。
水分を含んだようなやわらかさがあり、コーヒーのすっきりした苦味と合わせると、味が重くなりすぎない。
下部は、よりしっかりした生地感がある。
土台としての食感があり、噛むことで香ばしさが出る。
上の層だけを食べたときよりも、コーヒーとの距離が近くなる。
コーヒーの苦味や香ばしさが、下部の生地と重なり、後味を少し引き締める。
このチーズケーキは、専門で作られている方から仕入れているものだという。
もともとフェルドコーヒーのスイーツは、サブレから始まった。
そこから、お客さんとのつながりが生まれ、スイーツを扱う店との関係ができ、卸してもらうようになった。
その流れがとても良い。
店がスイーツを無理に増やしたのではなく、人とのつながりの中で少しずつ広がっていった。
コーヒーの店に、菓子の時間が足されていく。その自然さが、フェルドコーヒーの空気に合っている。
チーズケーキとコーヒーの相性は、かなり良い。
濃厚なチーズの余韻を、コーヒーがすっと整える。
チーズケーキの上部を食べたあとに飲むと、口の中の重さがほどける。
下部の生地を食べたあとに飲むと、香ばしさが重なる。
チーズケーキは甘さを置き、コーヒーはその輪郭を整える。
この組み合わせは、カフェでの時間を長くする。
一口食べ、一口飲む。その繰り返しが、会話よりも静かに続いていく。

所作メモ:フェルドコーヒーの一杯に見る、整える抽出

ペアリング|静かな濃厚さ、青い器のそばで

買うならこの一品|チーズケーキ

喫茶叙景文 ~青い焙煎機のそばで~

店舗概要
- 1 住所:
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東京都練馬区谷原5-26-12
- 2 アクセス:
-
―西武池袋線「石神井公園駅」または「大泉学園駅」から西武バスに乗車し、「谷原五丁目」バス停で下車して目の前
- 3 営業時間:
-
― 平日(月・火・金): 11:00 〜 19:00
土日祝日: 9:00 〜 19:00
定休日: 水曜日・木曜日 - 4 備考:
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練馬区谷原にある自家焙煎珈琲店。店主は南千住の名店カフェ・バッハで焙煎を学び、その縁もあって特別に同じ仕入れ先の豆を使用している。店内で自家焙煎を行い、ハンドピックで豆を整え、ハンドドリップで一杯ずつ抽出。チーズケーキや焼き菓子も用意され、コーヒーとのペアリングも楽しめる。定休日や営業時間は変更の可能性があるため、来店前に公式情報の確認推奨。
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