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nano-coffeeroaster|四つの精製が描く、エチオピアの香り(SCAJ2026)

東京ビッグサイトの南展示棟。
高い天井を支える鉄骨の下には、全国から集まったロースターたちの
ブースが並び、コーヒーを抽出する湯気と人々の話し声が幾重にも重なっていた。
SCAJ2026の会場には、焙煎された豆の香ばしさだけでなく、
新しい一杯との出会いを求める人々の熱気が満ちている。

そんな会場で、再び足を運んだのがnano-coffeeroaster(ナノコーヒーロースター)だった。

昨年のSCAJでも出会った、エチオピア産コーヒーに特化したロースター。
今回もブースには、産地や精製方法の異なる個性豊かなコーヒーが並んでいた。
木製の額縁に収められた商品紹介には、それぞれの豆が持つ香味や生産背景が丁寧に記されている。

今回紹介されていたのは、ゴアチョ、ベンチマジゲシャ、シェンゴ、ココセの4種類。
いずれもエチオピア産でありながら、精製方法や生産環境によって、その表情は大きく異なるという。

その中で実際に試飲したのは、アナエロビックナチュラルのゴアチョ。
口に含んだときに感じられたのは、重たさを抑えたボディと、そこから広がる豊かな風味だった。

同じ産地のコーヒーであっても、一粒が辿った工程によって、これほど異なる物語を持つ。

今回の再訪は、そんなエチオピアコーヒーの奥深さに改めて触れる時間となった。

第一章|エチオピアの可能性を追い続ける専門ロースター

nano-coffeeroasterは、東京都台東区浅草橋に焙煎所兼コーヒースタンドを構える、
エチオピア産スペシャルティコーヒーの専門店だ。

その特徴は、取り扱うコーヒーの産地をエチオピア一国に絞っていることにある。

一般的なスペシャルティコーヒー店では、中南米やアフリカ、アジアなど、
さまざまな生産国の豆を取り扱うことが多い。
しかし、nano-coffeeroasterはエチオピアという一つの国に焦点を当て、
その土地に存在する多様な風味を紹介している。

エチオピアは、コーヒーの起源と深く結びつく国として知られている。
標高や地域ごとの気候、生育環境、品種、精製方法によって、
華やかな花の香りから熟した果実のような甘さまで、多彩な味わいが生まれる。

同店では、こうしたエチオピアコーヒーの個性を伝えるため、小規模生産者やマイクロロットにも注目。
豆の背景にある生産者の努力や精製への工夫を、一杯のコーヒーとともに届けている。

また、公式情報では丁寧なハンドピックと直火焙煎へのこだわりも紹介されている。
生豆の状態を見極め、焙煎を通じてその個性を引き出すことは、ロースターとして欠かせない工程だ。

店主は長年コーヒー業界に携わり、抽出や焙煎の競技会でも経験を積んできた人物。
産地への深い関心と技術的な探究心が、専門店としての活動を支えている。

多くの産地を知ることも、コーヒーの楽しみ方の一つ。
しかし、一つの産地を深く見つめ続けることでしか出会えない表情もある。

nano-coffeeroasterは、その後者の魅力を伝えるロースターなのだと感じた。

第二章|ゴアチョ、赤ワインを思わせる嫌気性発酵の一杯

今回、実際に試飲したのはエチオピア・シダマ地方ボナズリア地区のゴアチョ(Gowacho)。

精製方法は、アナエロビックナチュラル(嫌気性発酵を取り入れたナチュラル精製)だ。
アナエロビックとは、酸素の少ない環境で発酵を進める手法を指す。
発酵条件を調整することで、通常のナチュラル精製とは異なる香味を生み出すことがある。

会場で担当者さんが紹介してくれたのは、ベリー系の果実感と、赤ワインを思わせる発酵由来の風味だった。

展示されていた説明には、赤ブドウ、グレープガム、甘酒、洋梨といった香味の表現が並んでいた。
さらに、96時間をかけた嫌気性発酵によって、特徴的な果実感を引き出しているという。

実際に試飲すると、まず印象に残ったのは、コーヒーのボディが比較的抑えられていたことだった。

口当たりに過度な重さがなく、その分、豆が持つ風味を捉えやすい。
嫌気性発酵という言葉から、濃厚で強い発酵感を想像することもあるが、
今回のゴアチョは、
風味の豊かさと飲み心地の軽やかさが両立しているように感じられた。

ボディが前面に出すぎないことで、果実を思わせる香味が自然に広がっていく。
重厚さで印象を残すのではなく、風味そのものの輪郭が見えやすい一杯だった。
もちろん、嫌気性発酵そのものが必ずボディを軽くするわけではない。

今回感じた軽やかさは、この豆の個性や焙煎、抽出を含めた仕上がりによるものだろう。
味わいの強さは、必ずしも口当たりの重さと比例しない。そんなことを考えさせてくれる試飲だった。

第三章|ベンチマジゲシャ、白ワインのような透明感

続いて紹介していただいたのが、ベンチマジゲシャ(Benchi Maji Gesha)。
こちらは、カーボニックマセレーションという特殊な発酵方法を採用したコーヒーだ。

カーボニックマセレーションは、ワインの醸造でも知られる技術で、
二酸化炭素を利用して発酵環境を整える方法。
コーヒーでも、その技術を応用した精製が行われている。

会場の説明によると、使用されている品種はGesha 1931。
担当者さんは、その味わいをゴアチョと対比しながら紹介してくれた。

ゴアチョが赤ワインを思わせる一杯であるのに対し、
ベンチマジゲシャは白ワインやレモンティーを思わせる、クリーンで爽やかな印象を持つという。

展示されていた香味の表現は、白ワイン、レモネード、シャンパン、青リンゴ。
いずれも、明るい酸味や透明感を連想させる言葉だ。

特に印象的だったのは、担当者さんが単に「フルーティー」と説明するのではなく、
赤ワインと白ワインという身近な飲み物に置き換えて、その違いを伝えていたことだった。

同じエチオピア産でありながら、ゴアチョとは異なる方向へ個性を伸ばした一杯。
今回は試飲していないものの、その説明からは、精製方法による香味の幅広さが伝わってきた。

果実感という一つの言葉の中にも、赤く熟した果実の濃さと、白い果実の爽やかさがある。
その違いを飲み比べる楽しみが、ここには用意されていた。

第四章|シェンゴ、暗室で育まれる実験的な香り

3種類目は、シェンゴ(Shengo)。
エチオピア・イルガチェフェのハルスケ地区に由来する、実験的なロットとして紹介されていた。

特徴は、ダークルームファーメンテーション(Dark Room Fermentation)という工程だ。
担当者さんによると、暗い部屋でじっくりと時間をかけて発酵を進める方法だという。
会場の説明には、果実をプレドライしたあと、
光を遮った暗室で45日間ゆっくりと乾燥させる工程も記されていた。

品種はKurume(クルメ)。エチオピアの在来系統の一つとして知られる品種だ。

展示されていた香味は、フローラル、ラズベリー、ピーチ、メロン、紅茶。
花のような香りと果実の甘さ、そして茶葉を思わせる繊細な印象が並んでいる。

ここで興味深いのは、発酵という工程が単に強い香りを生み出すためだけに使われているのではなく、
品種そのものの可能性を探る試みとして紹介されていたことだ。

通常とは異なる環境で発酵や乾燥を進めることで、同じ品種がどのような表情を見せるのか。
その探究が、一つのロットとして形になっている。

今回は実際の味わいを確かめる機会はなかったが、展示を読むだけでも、
生産現場で重ねられている工夫の一端を感じられた。

一粒のコーヒーには、育てる技術だけでなく、
まだ知られていない香りを探す時間も閉じ込められている。

シェンゴは、そんな精製の可能性を象徴するような存在だった。

第五章|ココセ、時間が引き出すネクターのような甘さ

最後に紹介していただいたのが、ココセ(Kokose)。

エチオピア・シダマ地方ベンサ地区のコーヒーで、精製方法はスロードライナチュラルと説明されていた。

ナチュラル精製では、コーヒーチェリーを果実の状態で乾燥させる。乾燥期間は環境や工程によって異なるが、担当者さんによると、一般的な目安として約2週間程度のところ、ココセでは24〜30日ほどの時間をかけて乾燥させているという。

その長い工程を経て生まれるのが、独特の甘さと口当たりだ。

担当者さんは、ココセの特徴を果実のネクターのような、とろみを感じさせる甘さと表現していた。

さらに興味深かったのは、温度による味わいの変化である。

温かい状態では果実感が際立ち、冷めてくると甘みがより明確に感じられるという。
コーヒーは抽出した直後と温度が下がった状態とで、香りや酸味、甘みの感じ方が変わることがある。

ココセでは、その変化自体が一杯の楽しみとして紹介されていた。

会場の展示には、ストロベリー、トロピカル、クリーミー、ネクターといった表現が並び、
濃密な果実感を想像させる。

熱いうちに飲み切るのではなく、少しずつ温度が下がる時間まで味わう。
一杯をゆっくり楽しむことの意味を、改めて教えてくれるような説明だった。

第六章|赤ワインと白ワイン、コーヒーを食卓へつなぐ提案

今回の取材で、特に印象に残ったのが料理とのペアリングについての話だった。

ゴアチョの説明を聞いたあと、担当者さんへ、どのような食べ物と合わせるとよいのか質問してみた。
すると返ってきたのは、スイーツだけにとどまらない提案だった。

赤ワインを思わせるゴアチョには、チーズ。一方、白ワインを思わせるベンチマジゲシャには、カルパッチョ。赤ワインとチーズ、白ワインと魚介料理。ワインの世界では親しみのある組み合わせを、
コーヒーにも応用するという発想だ。

コーヒーのペアリングと聞くと、ケーキや焼き菓子、チョコレートなどを思い浮かべることが多い。
しかし、今回の提案では、コーヒーを食後の飲み物ではなく、食事とともに楽しむ一杯として捉えている。

さらにスイーツについて尋ねると、
チーズケーキやチョコレート系のブラウニーなども相性がよいのではないか、という話があった。

特にゴアチョのように、赤ワインを思わせる発酵感を持つコーヒーであれば、
チーズのコクやチョコレートの濃厚さとの組み合わせを想像しやすい。

コーヒーの香りを言葉にすることは、その一杯に似合う料理を探すことにもつながっていく。
今回の取材は、コーヒーの楽しみ方を食卓へと広げてくれるものだった。

第七章|再訪だからこそ見えた、エチオピアへの探究心

再びnano-coffeeroasterのブースを訪れた。
今回の展示で目を引いたのは、単に個性的な豆が並んでいたことではない。
それぞれの豆に、精製方法と生産背景を伝える説明が添えられていたことだった。

ゴアチョは嫌気性発酵による赤ワインのような風味。
ベンチマジゲシャはカーボニックマセレーションによる爽やかさ。
シェンゴは暗室での発酵・乾燥工程。ココセは長い乾燥期間がもたらす甘さ。

四つの豆は、それぞれ違う工程を経て、異なる香味を持つコーヒーとして紹介されていた。

同じエチオピア産だからこそ、その違いがより鮮明になる。
さらに担当者さんは、それぞれの風味を説明するだけでなく、
料理との相性や温度による変化まで教えてくれた。

コーヒーを専門的に説明することと、飲み手に分かりやすく伝えること。
その両方を大切にしている様子が、短い取材の中からも感じられた。

今回、実際に試飲したのはゴアチョの一種類だけだった。
それでも、ほかの三種類の話を聞くことで、
一杯の背景には想像以上に多くの選択と工夫があることを知ることができた。

再び訪れることで、前回とは違う発見が生まれる。
それもまた、珈琲巡礼を続ける楽しみの一つなのだと思う。

ペアリング|ワインの発想から広がる食卓

・ゴアチョ × チーズ
赤ワインを思わせる発酵感と、チーズの塩味やコクを組み合わせる。
特に熟成タイプのチーズなどは、風味の重なりを楽しめそうだ。

・ゴアチョ × チョコレートブラウニー
ブラウニーのカカオ感と、ゴアチョの果実系の香味を合わせる。
チョコレートの濃厚さを、コーヒーの軽やかな口当たりが支えてくれるかもしれない。

・ベンチマジゲシャ × カルパッチョ
担当者さんが提案してくれた組み合わせ。
白ワインやレモンティーを思わせる爽やかな香味が、カルパッチョの繊細な味わいとどう重なるのか興味深い。

・コーヒー × チーズケーキ
今回の取材で挙がったスイーツの一つ。
チーズケーキの酸味や乳製品のコクと、豆の果実感を比較しながら楽しんでみたい。

※上記には、担当者さんの提案に加え、取材内容をもとに考えた家庭向けの組み合わせも含む。

喫茶叙景文 |四つの香りが交差する場所

高い天井から降り注ぐ白い照明が、コーヒー豆の並ぶテーブルを照らしていた。
東京ビッグサイトの広い展示場には、人々の話し声と抽出器具の音が絶え間なく響いている。
湯を注ぐ気配、紙カップを手に歩く人々、焙煎豆の香ばしさ。
さまざまな店の香りが混ざり合う会場の一角に、エチオピアの名を掲げた小さなブースがあった。

木製の額縁には、ゴアチョ、ベンチマジゲシャ、シェンゴ、ココセ。
それぞれの名前の下に並ぶのは、赤ブドウ、白ワイン、ラズベリー、ネクターといった言葉だった。
同じ国で育ったコーヒーでありながら、そこには異なる果実の景色が描かれている。
赤く熟したブドウを思わせる濃密さ、白ワインのような爽やかさ、花と果実が重なる繊細さ、
そして長い乾燥の時間を経た甘さ。額縁の向こうにあるのは、単なる味の説明ではなく、
遠い生産地で重ねられた手仕事の記録なのかもしれない。

試飲したゴアチョを口に含むと、思いのほか軽やかな飲み心地が広がった。
ボディは強く主張せず、その奥にある果実系の風味を自然に感じ取ることができる。
担当者さんが語ってくれた赤ワインのような発酵感という言葉が、味わいを理解するための手がかりになる。
重さを増すことで豊かさを表現するのではなく、軽やかさの中に香りの輪郭を残していく。
その一杯には、そんな印象があった。

会場では、次の一杯を求める人々が絶えず行き交っていた。
隣のブースから聞こえる説明、カップを受け取る手、豆を選ぶ視線。
その賑わいの中で、担当者さんは赤ワインとチーズ、
白ワインとカルパッチョという組み合わせを教えてくれた。
コーヒーが喫茶の時間を離れ、食卓の風景へと広がっていく。
目の前の小さなカップから、チーズの塩味や果実の酸味、食事を囲む時間まで想像がつながっていった。

昨年も訪れたブースに、今年もまた足を運んだ。
同じ名前を掲げた場所でありながら、そこには新しい豆があり、
新しい説明があり、まだ知らなかった味わいへの入口があった。
再訪とは、同じ景色を確かめることではなく、前には見えなかったものに出会い直すことなのだろう。

カップに残るコーヒーの余韻を感じながら、もう一度、木製の額縁へ目を向ける。
四つの名前が並ぶその先には、エチオピアという一つの産地が持つ、果てしない香りの広がりがあった。

一つの国を深く見つめることは、一杯のコーヒーの世界を、どこまでも広げていくことなのかもしれない。

店舗概要

1 住所:

東京都台東区浅草橋1-17-4 南側

2 アクセス:

JR総武線・都営浅草線「浅草橋駅」から徒歩約1分

3 営業時間:

― 10:00 〜 18:00
定休日: 水曜日・日曜日

4 備考:

【エチオピア産へのこだわり】
店主・春日さんが感銘を受けたエチオピアコーヒーのみを専門に扱う。
生産地やマイクロロットにこだわり、個性豊かなシングルオリジンを提供している。

【ハンドピック・焙煎】
丁寧なハンドピックと直火焙煎により、雑味を抑えたクリーンな味わいを追求。
豆本来の華やかな香りと風味を引き出している。

【コーヒー豆】
浅煎りから深煎りまで幅広く展開。
エチオピア特有のフローラルな香りや果実感など、多彩な個性を楽しめる。

【マルシェ出店】
2021年頃からマルシェに出店。
有楽町の交通会館マルシェや恵比寿マルシェなどで活動し、
実店舗開業前からファンとの交流を重ねてきた。

【実店舗】
東京都台東区浅草橋に自家焙煎コーヒースタンドを展開。
エチオピア産スペシャルティコーヒーの魅力を発信している。

5公式サイト:
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